消費税国会に突入 衆院解散・総選挙含み
3月の「民主自壊」、6月「話し合い」!?「あきらめない」野田首相の戦略は・・・

衆院本会議で施政方針演説をする野田佳彦首相=国会内で1月24日

 野田佳彦政権は、「政治生命を懸ける」と言い切った消費増税の実現を目指して通常国会に突入した。東日本大震災の復興予算を盛り込んだ11年度第4次補正予算と12年度当初予算の成立を図った後の春以降、政局は大詰めを迎えそうだ。ねじれ国会の中で予算関連法案も成立のめどが立たず政権運営の視界は極めて不良。施政方針演説で次世代のために「政局より大局を」と野党に呼び掛けた野田首相に戦略はあるのか---。

 1月24日に召集された通常国会は、消費税の増税問題を軸に衆院解散・総選挙含みの展開となっている。政府・与党は1月、増税時期と引き上げ率を決定、野田首相は野党の合意が得られなくても、3月中に消費増税法案を通常国会に提出する構えだ。

 消費増税法案の提出には民主党内の異論も根強くあり、この時期から6月21日の国会会期末にかけて緊張が高まるのは必至。首相が衆院解散・総選挙に踏み切れば、民主党分裂による政界再編も現実味を帯び、政界は大荒れになることが予想される。

 ただ、政局優先で消費増税を争点とした選挙に突入すれば、増税時期が遅れることで日本財政や円への信任が揺らぎ、国民に大きなツケを残す事態になりかねない。

 「『出直しをして(衆院を)解散しろ』という野党に対しては、やるべきことをやって、やり抜いて民意を問うことをはっきり宣言したい」

 首相は1月16日の民主党大会で、消費増税を争点とした衆院解散・総選挙を辞さない決意を強調した。輿石東幹事長も「この夏までが勝負だ。野田政権は避けることも逃げることも許されない。真正面から挑戦する」と同調し、野党に攻めの姿勢で臨む意向を鮮明にした。

 首相が衆院解散・総選挙に踏み切る可能性が高まるのは、
①野党提出の内閣不信任案に民主党内から造反議員が出て賛成し、可決された時
②消費増税法案が衆院ないし参院で否決され、今国会での成立が見込めなくなった時---の二つの局面だ。

 与党が過半数を占める衆院に提出される内閣不信任案は、与党内から造反者が出て賛成しなければ可決されない。自民党などが注目するのが消費増税に反対する議員が多い小沢一郎元代表のグループの動向だ。

 だが、小沢元代表は政治資金収支法違反の公判を抱え、判決が出ると見られる4月までは身動きが取れない。このため、自民党など野党が、消費増税法案が提出される3月末までに内閣不信任を提出する可能性は低くなっている。

 自民党幹部は「3月解散は民主党の『自壊』を待つしかない。こちらから仕掛けられるのは(会期末の)6月だ。(12年度の赤字国債発行に必要な)特例公債法案や、消費増税法案でどう政権を追い込むかが最大の勝負どころだ」と語る。自民党と選挙協力を組む公明党も「6月解散」を重視しており、連携を取りやすいメリットがある。また、消費増税法案の成立と引き換えに、首相に解散を確約させる「話し合い解散」にも、依然として期待をつなげる声がある。

 ただ、民主党内には小沢グループ以外にも、「首相が3月に消費増税法案を国会に提出すれば、党は割れる」(鳩山グループ議員)との声が出ており、3月に一気に緊迫する可能性も残っている。その場合、3月末から4月の早い段階での不信任案提出も想定される。

 首相が消費増税法案を3月に提出できても、その先は見通せていない。首相は「造反は全く念頭に置いていない。年末に党政調において、全員が最後まで残った中で、全員で合意をした(消費増税の)素案だ。心の中にはいろいろあるかもしれないが、強行で決めたわけではなく、議論を尽くして意見集約した」(1月17日の内閣記者会インタビュー)と強調するが、民主党内はまとまっていないのが実情で、衆院で消費増税法案を可決できるかは不透明だからだ。

 首相は「『参院では少数だから法案が通らない』ではなく、野党にどうしても理解をいただけない場合は法案を参院に送り、法案をつぶしたらどうなるのかを考えてもらう手法も時には採用していこう」と1月の党大会で呼び掛けたが、消費増税法案についてはそもそも衆院可決に漕ぎ着けられるかが最初のハードルとなる。

 仮に衆院で消費税法案が可決されても、今度は野党が過半数を握る参院が待ち構えている。与野党の対決色が強まっている現状のままで、参院で消費税法案が可決される可能性は極めて低い。

一体改革の旗振り役を務める岡田克也副総理=首相官邸での新閣僚会見で1月13日

 民主党議員は「05年、小泉純一郎首相は郵政民営化法案が参院で否決され、衆院を解散し郵政選挙に踏み切った。野田首相もその覚悟なのではないか」と語る。だが、小泉政権が国民の高い支持率を得ていたのに対し、野田政権の1月の内閣支持率は32%、不支持率44%で、初めて不支持が支持を逆転した。

 内閣改造で岡田克也副総理を起用したことから横ばいを保った調査もあるが、消費増税への国民の理解も必ずしも進んでいない。政府は税と社会保障の一体改革に関する広報・宣伝活動を強化する方針だが、「消費増税で解散すれば、野田首相は惨敗する」(同)と見られている。このため、「首相は解散できず総辞職に追い込まれるのではないか」(小沢グループ議員)との見方も出ている。野田首相にとってはまさに八方ふさがりの状況だといえる。

 消費増税に着実に道筋をつけられる方法が唯一あるとすれば、話し合い解散だ。自民、公明両党などが消費増税法案成立に協力する代わりに、首相が6月の会期末までに衆院を解散するというものだ。「消費税率10%」はそもそも自民党が10年参院選で掲げた公約で、自民党内からも「『解散、解散』と言って反対するのは国民に分かりにくい」(幹部)との声が出ており、森喜朗元首相や石破茂前政調会長などからの異論も強い。

解散・総選挙に追い込めるか。自民党大会で演説する谷垣禎一総裁=東京都内のホテルで1月22日

 消費増税反対を主張しての衆院選は戦いづらく、谷垣禎一総裁は昨年12月の講演で「勝とうが負けようが『基本的な方向性が一致するからそれはやっていこう』としていくつもりだ」と衆院選後の民主党との協力を公言し、小沢グループが民主党を割ることも視野に、「小沢抜き大連立」や政界再編の可能性を示唆した。民主、自民双方に「話し合い解散」への期待が高まれば、そうした可能性も否定できないが、「増税反対を唱える小政党に票が流れていく」(民主党幹部)との慎重論もある。

 いずれにしても、与野党の政争で年金制度の抜本改革や消費増税導入が先送りされれば、将来展望も描けぬまま、さらに大きな借金を背負わされるのは国民だ。日本の財政と円の信任も消費増税の余地が日本にはあるから保たれている面もあり、消費増税に道筋をつけることに失敗すれば、円暴落の危機もゼロとは言えない。「政争を繰り返している時間は少ないことを与野党の政治家は肝に銘じるべきだ」とのいらだちに満ちた声が経済界を中心に出ている。

与野党の思惑が交錯する政治改革
増税前に求められる歳出カット

 民主党は、国民に消費増税を求める前提として「身を切る改革」の姿勢を見せるために、まず衆院定数の削減を野党に呼び掛けている。最高裁判決で違憲状態とされている「一票の格差」是正は解散への環境整備の一つでもある。

 同党の政治改革推進本部(本部長、樽床伸二幹事長代行)が1月17日、衆院の格差是正のために、都道府県に1議席ずつ割り振っている「1人別枠方式」を廃止し、小選挙区を「0増5減」とする衆院議員選挙区画定審議会(区割り審)設置法改正案の骨子をまとめた。独自の「5増9減」「6増6減」の2案を捨て、自民党案を丸のみしたのは、1票の格差是正と選挙制度の抜本改革を併せて行うことを主張している公明党との分断を図る狙いがある。

 しかし比例代表定数を現行の180から80削減して100にする公職選挙法改正案骨子も決めたため、「30削減」案の自民党は「少数政党への配慮がない」と反対。暗礁に乗り上げている。公明党は比例代表で中小政党により有利な小選挙区比例代表連用制や同併用制などへの制度改正を求めていた。

 消費増税の道筋をつけるため野田政権は、政治・行政改革で野党への譲歩戦略に転換した。25日の衆院選挙制度改革に関する各党協議会で座長の樽床氏が、選挙制度の抜本改革も2月25日までに同時決着させることを提案した。

 また国家公務員給与削減では、民主党が、労働条件などを労使交渉で締結する権利付与と人事院勧告の廃止の方針を撤回。民、自、公3党が、今年3月から人勧(平均0・23%減額)を実施したうえで、同4月から平均7・8%上乗せし計平均8・03%減額することで合意した。

 一方、税と社会保障一体改革の司令塔役となる岡田副総理は就任直後の15日のNHK番組で議員歳費について「公務員が(給与削減法案で)8%削減という時に国会議員は定数削減だけでなく、歳費削減もしっかり行うべきだ」と述べた。政党交付金の削減についても「すべきだと思う」と前向きな考えを示した。

 ところが議員歳費と政党交付金について政府の立場からの積極発言には、民主党執行部から「党内で何も議論していない」と反発の声が上がった。議員歳費削減に言及したことに関して23日に、衆院議院運営委員会の小平忠正委員長から「副総理の重責にあるので、発言は慎重にしてほしい」と要請されるなど、岡田氏の空回りが続いた。

 野田首相は24日の施政方針演説で「『決められない政治』からの脱却を目指す」と述べ、消費増税に真正面から取り組み意欲を見せた。その前の「身を切る改革」が、与野党の思惑が入り乱れると「決められない」ことになりかねない。

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