公的資金の投入を巡って東電の内部分裂も。イラン危機でホルムズ海峡閉鎖も浮上する中、東電改革に欠けている「安全保障」の視点
東京電力は原子力損害賠償支援機構に強く抵抗している〔PHOTO〕gettyimages

 経済産業相の諮問機関、総合資源エネルギー調査会(会長・三村明夫新日鉄会長)の基本問題委員会は昨年12月20日、A4版25頁の『新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理』を関係部署に配布した。その翌日には、政府のエネルギー環境会議(議長・古川元久国家戦略担当相)が第10回新大綱策定会議を開き、A4版17頁の『基本方針(概要)~エネルギー・環境戦略に関する選択肢に向けて』をまとめた---。

 原子力損害賠償支援機構(NDF。理事長・杉山武彦前一橋大学学長)は3月の年度内に、東京電力に対し経営支援と原子力事故賠償費用ため公的資金による資本注入約1兆円を出資する。

 これまでに公的資本が注入されたのは、1.預金保険機構から都市銀行など金融機関21行に1兆8000億円(1998年3月)、2.同19行に7兆5000億円(99年3月)、3.預金保険機構からりそな銀行に1兆9600億円(03年6月)、4.産業再生機構からダイエーに500億円(04年12月)、5.企業再生支援機構から日本航空(JAL)に3500億円(10年12月)の5つの事例がある。

 資本注入の様態を見てみると、各事例とも優先株であれ普通株であれ、議決権の6割超を国が保有、実質的に公的管理下におかれた。ただ、1と2のケースは、議決権のない優先株と劣後ローンを組み合わせたうえで、早期健全化法に基づく経営改善業務を課し、未達成の場合は経営責任が求められた。が、現時点では大多数の銀行が返済を終えている。

東電経営陣と中堅幹部の思惑の違い

 ところが、東京電力は資本注入受け入れを表明しているにも関わらず、普通株を中心に議決権の過半を抑えようとする原子力損害賠償支援機構に強く抵抗しており、出資形態を巡って両者の調整が難航している。時価総額が約4000億円の企業が1兆円の公的資金の導入を受けるのに「経営権が奪われる」「自主性が失われる」と言い募って抵抗する東電サイドの理屈が分からない。

 東電内の守旧派は、実は部長や平取締役クラスである。勝俣恒久会長-西沢俊夫社長-企画部長のラインはむしろ世上に長けており、そのような主張が世間では通用しないことを理解している。が、「電力の安定供給」を錦の御旗に経営権の取得で事業改革・経営陣刷新を求めるNDFに反発する中堅幹部を抑えられないのが実情である。

 そうした中、東電の総合特別事業計画(=東電改革)を3月中旬までに策定したいとするNDFもまたジレンマを抱えている。東電改革は、言わば「電力改革」でもある。わが国の電力行政を考えるとき、中長期の資源エネルギー政策を確立したうえで、その観点に立って電力業界の再編、発送電の分離、原発依存へ野低減と再稼動・廃炉、化石燃料輸入先の分散、再生可能エネルギーの開発・利用の加速化など取り組まなければならない。

 換言すれば、いま喫緊の課題である東電改革は、そうした問題意識に基づいて議論しなければならないのに、東電側は経営権が危うくなるという危機感から抵抗を続けているのである。いみじくも大物経産官僚OBが「東電は官僚以上に官僚的なところ」と筆者に語ったように、彼らはまさに改革に反対する抵抗勢力である。

 加えて、先に紹介した2つのペーパーを熟読玩味すれば分かるのは、そのいずれにも「安全保障」の視点が欠落しているということだ。

 一例を挙げる。米欧主導でいま進められているイラン原油の輸入停止という経済制裁によって、イランはホルムズ海峡封鎖という軍事的な対抗措置に踏み切る可能性を示唆している。仮にホルムズ海峡封鎖といった事態となれば、米欧諸国とイランとの軍事衝突の危険もさることながら、日本経済に与える影響は計り知れないほどのダメージとなる。

 浜岡原発を完全停止した中部電力の火力発電所は化石燃料に依存している。そのうちの約2割が石油・石炭であり、残る8割が液化天然ガス(LNG)だ。そのLNGの約80%が中東・カタール産である。これがストップするようなことが出来すれば、わが国の主要製造業が集まる愛知、静岡県内の自動車工場の生産ラインに多大なダメージを与える。備蓄が殆どないLNGの供給ストップは直ちに生産停止になりかねないのだ。

 このように、わが国のエネルギー資源政策策定は外交・安保の視点抜きに考えられない。それはまさに、電力改革=東電改革にもそうした視点が求められているということである。

 東電の一時国有化は不可避であり、当分間の電力安定供給のためにもストレステスト(耐性評価)をクリアした原発の再稼動もまた必要であろう。政治決断が求められる所以だ。枝野幸男経産相は"第2の鈴木貫太郎"を目指すべきだ。
 

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