中野香織 第1回「ダンディズムを究める美人学者、登場」

撮影:立木義浩

<店主前曰>

 今回は人類が発見した男の究極の美学、ダンディズムの研究家、中野香織さんが来店しての対談である。全身黒一色に身をかためた美女にして大学教授の中野さんは、30分前に広尾のネスプレッソ・カフェ・ド・シマジに姿を現わした。

 遅れること10分、お洒落とはほど遠い無精髭の瀬尾編集長が、いつもの口癖「スミマセン、スミマセン」を連呼しながら入店してきたが、肝心の巨匠、立木義浩がまだこない。いつもなら定刻30分前には2人のアシスタントを引き連れて、颯爽と長身と地毛の銀髪を翻して現われるだが。

シマジ おかしいな、瀬尾。12日に対談をやるって立木事務所に伝えたんだろう。

瀬尾 はい、もちろんです。

シマジ 瀬尾、おまえから事務所に電話を入れてみな。

瀬尾 いや、シマジさんからお願いします。

シマジ おまえは相変わらず、人使いがあらいね。じゃあ、おれから電話入れるか。

「もしもし、立木事務所ですか。もう絶世の美女は来ています。いまタッチャンを待ってるところなんですが。ええ? 16日だって? 言ったの! おれが? 対談の撮影は今日の2時だよ。まあ、いいや。まだ巨匠は上の自宅にいるんだろう? じゃあ、超特急で来るように、タッチャンに伝えてよ」

 しばらくして立木さん本人から電話があった。

立木 シマジ、こちらのスケジュール表には16日に入っているぞ。まあ、しょうがない。いまから行くわ。これからおまえではなく撮影日は瀬尾に決めさせろ。おまえも年だから、こんな混乱が生じるんだよ。

シマジ タッチャン、ゴメン。今日の対談相手は珍しく女でしかも美女なんだ。彼女に免じて勘弁してちょうだい。瀬尾にはきつくおれから言っておく。

瀬尾 (小声で)いや、電話をしたのはシマジさんなんだけれど・・・。

中野 大丈夫なんですか。

シマジ 中野さんもわたしも強運の人なんでしょう。珍しく今日はタッチャンは家にいたようです。瀬尾、これからはタッチャンの撮影日の連絡はおまえに任せる。でも今日はついていてよかったな。

瀬尾 申し訳ありません。ほっとしました。立木さんの事務所は六本木でしたよね。

シマジ ここからみえるじゃないか。しかも職住接近でタッチャンはビルの最上階に住んでいる。光より速く、いやピザ屋より速く、出前迅速でやってくるさ。