雑誌
国際基督教大学卒
51歳ソニー新社長の評判

4期連続赤字から脱出できるか
「プレゼンのうまさは抜群」と評される平井氏〔PHOTO〕gettyimages

 かつては故スティーブ・ジョブズ氏も憧れた会社、ソニー。冒険心と創造性にあふれた企業カルチャーは復活するのか。世界中が熱狂したソニーブランドは輝きを取り戻せるのか。すべての命運は、ユニークきわまりない経歴を持つ新リーダーにかかっている。

 これまで3期連続赤字と不振に陥っているソニー。ハワード・ストリンガー会長兼社長(69歳)のもとでなかなか結果を出せない同社に、まもなく新しい社長が誕生することがほぼ確実となった。副社長を務める平井一夫氏(51歳)だ。創業者の盛田昭夫、井深大の両氏を除けば、歴代最年少の社長になる。

 この平井氏、ソニーの経営者としてはかなり異色の経歴の持ち主だ。'84年に国際基督教大学(ICU)を卒業し、入社したのは音楽事業のCBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)。'95年にはゲーム事業のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)に転じ、渡米。同社の北米法人でビジネスの展開を全面的に任された。

 米国で手腕を認められた平井氏は、'07年に日本に戻り、プレイステーション(プレステ)の開発で有名な久夛良木健氏の後を継いでSCEIの社長に就任。経営を見事に建て直して、'09年からソニー執行役、'11年4月から副社長を務めている。

 ジャーナリストの西田宗千佳氏が説明する。

「ソニーには、ずっと日本国内でモノづくりを担当するエリートコースを歩む人もいますが、一貫してエンタテインメント畑にいた平井氏はそれと対照的です。彼の大きな功績は二つ。一つは、ソニーが約20年前に始めた米国市場でのゲーム事業を大きく伸ばし、任天堂と戦えるまでにしたこと。もう一つは、プレステ3の不振で赤字を出していたSCEIを引き継いで、5年で黒字転換させたこと。結果として、ソニーグループ全体を支える利益を生み出すに至ったのです」

若手「四銃士」の出世頭

 ソニーにも他の日本の大企業と同じく、学閥は存在すると言われる。しかし数年前から、状況は少しずつ変わってきた。

「学閥にとらわれないのがストリンガー体制。(多数派ではないICU出身の)平井氏の抜擢も、現体制ゆえに生まれた人事でしょう」(前出・西田氏)

 もちろん、それだけが新社長決定の理由ではない。背景にはソニーの厳しい経営状況がある。前述したように3期連続の赤字で、しかも'11年11月に発表された予想では、'12年3月期も900億円の赤字見込み。つまり4期連続赤字のピンチに陥りつつあるのだ。

 ソニー中堅社員が言う。

「実際には、今期の赤字は900億円を大幅に上回るのではないかというのが大方の見方です。『ストリンガーの経営では立ち直れないだろう』という声が社内のあちこちで上がっており、幹部の中に、ストリンガー解任を求める動議を出す動きもあったと聞きました」

 近年、プレステ以外にソニーから目立った大ヒット商品は出ていない。特に利益率の小さいテレビ事業は低迷し、これまで7期連続の赤字。最もソニーの足を引っ張るビジネスになってしまった。平井氏も副社長就任以来、自らテレビを含む消費者向け製品全般を担当し、再建を図っているが、「テレビの黒字化のメドはまったくない」(企業アナリスト)のが実情だ。

「もう、製品を作れば売れる時代ではありません。テレビ、パソコン、プレステ、タブレット、スマートフォンなどの端末をネットワークでつなげ、それに音楽や映画やゲームを乗せて儲ける仕組みを築かなければ、赤字を脱出できない。その最適任者が、コンテンツビジネスやゲームを知り尽くした平井氏なのです」(経済ジャーナリスト・松崎隆司氏)

 もう一つ、平井氏の社長抜擢の大きな理由は、ストリンガー氏に非常に近いこと。二人の親しい関係は、平井氏が米国でゲーム事業を展開し、ストリンガー氏がソニー米国法人の社長になった'97年以降のこととされる。ビジネスの業績がめざましかったせいなのは当然だが、他にもストリンガー氏に気に入られた要因がある。それは、平井氏のネイティブ並みの英語力だ。

 平井氏は大手銀行に勤める父親の仕事の都合で、小学1年のとき一家で渡米。以後、中学卒業まで、日米を往復して数年ずつ住む生活を送る。高校は調布市のアメリカンスクールに通い、外国人学生や帰国子女の多いICUに入って、バイリンガルとして育った。

「ストリンガー氏も人の子、やはり母国語で十分に意思の疎通ができる人間と親しくなりますよ。『私のジョークを完璧にわかるのは経営陣で平井しかいない』と言ったそうです」(前出・松崎氏)

 それも一因なのか、平井氏は4人の若手幹部「四銃士」の中でも、ストリンガー氏に「後継者」と呼ばれ、先頭に立って昇進していく。ただし、実はすでに2年前から、ストリンガー氏は平井氏に社長の座を譲ろうとしていたが、社内上層部の猛反対にあって実現していない—と複数のソニー関係者は口を揃える。

「経営の失敗を批判されているストリンガー氏は、社長だけ平井氏に譲り、会長職には留まろうとしている。それに対し、『形だけ責任を取ったように見せ、実は院政を敷こうとしているのではないか』という疑惑の声が上がっているのです。また、いまだに『(本流の)エレクトロニクスをやったことのない奴に社長が務まるか』と言う者もいます」(前出・ソニー社員)

 '11年4月、平井氏の副社長就任直後に、ソニーを揺るがす大トラブルが勃発した。1億件を超える個人情報の流出だ。平井氏はすぐに会見を開いて謝罪し、事態を早めに収拾した。これが好評で、また平井氏を社長の座に近づけたという。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら