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「アウターライズ地震」が列島を襲う
「3・11」まで2ヵ月を切った 官邸と文科省が隠蔽しつつ密かに恐れる「次」の悪夢
3月11日、高さ5mの防波堤を乗り越える津波。悪夢が繰り返される可能性は菅首相の在任時から指摘された〔PHOTO〕宮古市役所提供

取材・文 森 省歩(ジャーナリスト)

 年が改まった元日の午後2時28分、正月気分を打ち破るかのように、M7.0、最大震度4の地震が東北から関東にかけての広いエリアを襲った。大地がゆったりと波打つような不気味な揺れは2分以上続いたが、多くの政府関係者や地震学者らの胸には不安がよぎったという。

「ついに恐れていた地震が起きたか」

 地震学者がその発生を懸念、指摘しな がら、政府が情報の公開を躊躇してきた地震とは、専門家の間で「アウターライズ地震」と呼ばれている地震だった。幸いにも元日の地震は鳥島近海を震源とする別のタイプの地震だったが、関係者は密かに肝を冷やしていたというのである。

 アウターライズ地震は、昨年3月11日の東日本大震災の直後から、在野の地震学者を中心に、〝本震とのペア〟で発生が懸念されてきた巨大地震である。広い意味では本震に対する余震と言うこともできるが、専門家の間では本震に誘発されて起きる別の地震と見る向きが多い。その発生メカニズムはこうだ。

 3月11日の本震は、太平洋プレート(海側のプレート)が日本列島の乗る北米プレート(陸側のプレート)を押し込みながら日本海溝で沈み込み、そのプレート境界域で起きた。本震の発生で北米プレート側のひずみは解消されたが、抵抗する力が少なくなった分、太平洋プレート側はより沈み込みやすい状態になった。そして、太平洋プレート側のこれまでのひずみに、本震後のより沈み込みやすくなった状態が加わることで、引っ張りの力に耐え切れなくなった太平洋プレートが引きちぎれ、プレート内のごく浅い場所で正断層破壊が起こる---。

 目下、想定されている震源域は、本震の震源域から日本海溝をまたいだ南北約500㎞にわたる地域で、地震の規模も本震(M9.0)に近いM8~9となる可能性が指摘されている(図参照)。また、十勝沖、千葉県東方沖地震の震源域に3・11の〝割れ残り〟があり、この震源域での地震発生も危惧されている。官邸に近い民主党の中堅代議士が明かす。

「3・11由来のアウターライズ地震については、本震から1ヵ月以内にも起こる可能性があるとして、官邸は密かに恐れ警戒していた。本震発生当日に宮城県沖の日本海溝の外側で発生した地震はアウターライズ地震だったとされているが、地震の規模がM7.5と小さく、官邸はこれを、想定される巨大アウターライズ地震の前震と捉えていた。

 地震のエネルギーは発生が延びれば延びるほど蓄積されていくため、本震から3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月などの節目の時期を経て、官邸は一段と危機感を募らせています」

 この中堅代議士によれば、その一方で官邸が情報の公開を「ひた隠し」にしてきたのは、予想される被害があまりにも甚大であり、かつ、現状では打つ手がないからだという。要は、情報を公開すれば国民から必要な対策の実施を迫られ、必然的に「打つ手なし」の現状が白日の下に晒されて、大批判と大パニックに見舞われることを、官邸が警戒し思考停止に陥った結果だと言うのである。

 アウターライズ地震では正断層破壊が一気に起こるため、巨大津波を引き起こすと言われている。事実、'04年12月のスマトラ島沖地震(M9.1)の約3ヵ月後に発生したアウターライズ地震(M8.7)では、揺れと津波で1700人以上の死者が出た。

 同様に、明治三陸地震(M8.2)の37年後にあたる1933(昭和8)年に起きた昭和三陸地震(M8.1)も津波を伴うアウターライズ地震だった。このように発生時期は本震の3ヵ月~37年後と幅があるが、「アウターライズ地震は本震の発生からそう遠くない時期に発生する」というのが専門家らの共通認識になっている。

「瓦礫処理など復興のスピードがまったく上がらなかった一因もアウターライズ地震にある。事実、当時の菅直人首相には『本格復興は、もう一度、津波が来てから』と考えていたフシすらある。食道がんで退任した福島第一原発の吉田昌郎所長(当時)は、本震の直後、一刻も早く防波堤の建設を進めるよう官邸に進言したが、菅首相は原発の周囲に土嚢を積むという代替案でお茶を濁した。真実も伝えず、対策も打てない。現在の野田佳彦首相を含め、民主党政権の危機管理能力を根底から疑わせる」(自民党幹部)

(上)森谷氏は、地震が起こる前、FM電波が基地局から離れた場所で観測される事象に着目し、地震を予知する
(下)森谷武男氏のホームページのうち、肝心の研究成果が発表された部分は、ご覧のとおり「閉鎖」の憂き目に〔PHOTO〕小笠原 淳

 そんな中、昨年11月下旬、北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター(札幌市)で、研究支援推進員を務める森谷武男氏(69)がアウターライズ地震に関して発した警告が削除されるという〝事件〟が発生した。

 森谷氏が自身のホームページに警告を掲載したのは昨年10月下旬のこと。森谷氏は北大理学部助教授を務めていた'02年からFM電波を使った地震予知研究を開始し、東日本大震災をはじめいくつかの地震を的中させた人物として知られる。森谷氏が着目しているのは「地震エコー」と呼ばれる異常現象である。普段は届くはずのないFM電波が基地局から遠く離れた場所で観測されるようになる現象で、異常現象の継続期間が長ければ長いほど地震の規模は大きくなり、異常現象が消失する静穏期に入って間もなく地震が発生するとされている。

 東日本大震災の場合、北海道えりも町にある北大の観測施設が約8ヵ月間に及ぶ異常現象を観測し、静穏期に入った昨年2月下旬から間もない3月9日にM7.3の前震が起こり、2日後の3月11日に本震が発生した。えりも町で観測されたFM電波の発信元は岩手県内の基地局と見られているが、本震後の昨年4月10日頃から再び本震前と同じ異常現象が観測され、かつ、その異常現象がほぼ同じパターンで継続したことから、森谷氏は自身のホームページでこう警告したのだ。

〈地震エコーの総継続時間は16万分に到達しました。もしもこのまま3月11日の地震の前と同じ経過をたどるとすれば、再びM9クラスの地震が発生すると推定されます。震央は宮城県南部沖から茨城県沖の日本海溝南部付近であろうと考えられます。震源メカニズムが正断層である場合には(中略)巨大津波になる可能性が考えられます。発生時期は12月から2012年1月にかけて〉

「何のための地震予知なのか」

 ところが、同センターは一連の警告を「いたずらに不安を煽る」として問題視し、森谷氏に強く迫ってホームページから削除させてしまった。そして、11月18日付の同センターのホームページに、森谷氏の主張を〈現時点で科学的な根拠の薄い地震予測情報〉と断じる「お詫び」まで掲載したのである。この問題を当初から追及してきた札幌在住のジャーナリスト・小笠原淳氏が指摘する。

「そもそも、森谷さんは『あくまでも個人的な見解』と断った上で件の警告を発している。にもかかわらず、センターは森谷さんの自由な言論活動に待ったをかけたばかりか、マスコミ取材の窓口をセンターに一本化して、森谷さんへの直接取材にまで制限をかけたのです」

 そして、同センターによる包囲網が敷かれる中、ようやく接触することのできた当の森谷氏は、控えめながら次のように本誌に秘めたる怒りを爆発させた。

「警告で震央を『日本海溝南部付近』と書いてしまったため、千葉県東方沖地震がクローズアップされているようだが、最も懸念されるのはアウターライズ地震です。今年に入って地震エコーが微弱になり始めており、いよいよ地震発生の危険が高まってきたと確信しています。

 地震予知には多額の予算が投入されており、情報発信に否定的であることは国民への背信行為です。私自身は、予測が外れたことで恥をかいても、一向にかまわないと思っています。大切なのは人命を守ること。備えを呼びかけず、注意も喚起せずでは、何のための地震予知なのか。物理学者で地震学者でもあった寺田寅彦は、『正しく報道し、正しく備える』ことの重要性を説きました。自己規制なのか誰かの命令なのか、原発事故報道でも〝大本営発表〟が目につく。学者もメディアも猛省が必要だと思います」

 一方、一連の騒動について、同センターでFM電波による地震予知研究の責任者を務める茂木透教授は、

「森谷先生の警告直後からマスコミ取材の他、被災者からの悲痛な問い合わせなどが殺到し、センターは大混乱に陥った。削除は多数決で決めたもので、妥当な措置だったと思っています」

 と答え、同センター長でマスコミ取材の窓口を務める谷岡勇市郎教授も、

「アウターライズ地震が起きやすくなっているのは事実だが、それがどれくらいの規模になるかは地震学的にハッキリしていない。警告削除の理由はホームページのお詫びにある通りで、センターに言論を封殺する意図などありません」

 と正当性を主張する。

 しかし、森谷氏に対する同センターの措置を巡っては、背後に国立大学を所管する文部科学省による圧力があったとの指摘もある。同センターの初代センター長を務めた地震学者の島村英紀氏も、「私自身は森谷氏の研究に懐疑的だが、発言の機会が封じられるのはやはりおかしい」とした上で、こう耳打ちした。

「北大の場合、文科省の役人が理事職に名前を連ねるなど、もともとお上に弱いという基本的性質がある。現センター長の谷岡氏も気象庁の出身で、どちらかといえば役人的に立ち回るタイプの人間。さらに、センター自体も理学部附属というよりは北大直属で、文科省の影響を受けやすい組織と言っていい。初代センター長だった私の実感から見ても、森谷氏の一件の背後で文科省の意向が働いていたことは容易に想像がつきます」

 実は、東日本大震災の直後、現センター長の谷岡氏は、M8.5のアウターライズ地震が日本海溝の外側で発生した場合の津波予測に関する研究に着手している。しかも、複数の同センター関係者によれば、「谷岡氏の研究は地震調査研究推進本部を所管する文科省から内々に依頼された」という。だが、森谷氏の警告が削除された直後の昨年11月25日、文科省の地震調査研究推進本部は「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価(第二版)について」と題する報告書をプレス発表しているが、報告書に「アウターライズ地震」の文字は見当たらず、内容的にも同タイプの地震に関する記述はきわめて貧弱なものになっているのだ。

 谷岡氏は「津波研究のいきさつは公にできないが、(森谷氏の一件で)文科省から圧力をかけられた事実はない」と語り、文科省地震・防災研究課も「ホームページから削除するよう求める指導はしていない」と否定した。

 断言するが、文科省はアウターライズ地震を脅威に感じているのにもかかわらず、その脅威を積極的に伝えようとしていない。アウターライズ地震が起こりうるという研究成果を国民の目から引き離し、多くの人命を危険に晒してまで情報を隠蔽しようというのだろうか。

もり・せいほ 1961年、北海道生まれ。慶應義塾大卒。政界の暗部を抉るルポ多数。著書に『鳩山由紀夫と鳩山家四代』(中公新書ラクレ)、『政権漂流―交代劇は日本の何を変えたのか』(同)

「フライデー」2012年1月27日号より

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