企業・経営
これでも「上場維持」の資格などあるのか。オリンパス「資産超過」の虚構を暴く『隠蔽メール』をスクープ公開
 
筆者が最近入手した、1通のメールのコピー

筆者 山口義正(経済ジャーナリスト)

 オリンパスの取締役責任調査委員会と監査役責任調査役委員会が17日までに調査報告書をまとめた。今後の焦点は、オリンパスが上場維持できるかどうかに移るだろう。

 しかし報道に接する限り、上場維持を前提に議論が進んでいるような印象を持っているのは、筆者ばかりではあるまい。オリンパスの債務超過転落を回避し、これに融資する銀行に損失負担をかけず、監査法人の責任を限定的なものにして経営を守り、積極的な関与を避けてきた東京証券取引所は「資産超過」の虚構に乗っかる---という着地点を最初から意識したものであろう。

 しかしそれと引き換えに失う物は多く、日本企業全体と日本市場に対する信頼は泥にまみれている。それはすでに株式市場の極端な薄商いとなって表れ、証券界では経営規模で劣る中堅証券が次々と廃業の淵に追い込まれている。

 ここに筆者が最近入手した、1通のメールのコピーがある。オリンパス本社の経営企画部や医療機器部門の経営企画担当者ら部長クラスの間で交わされたもので、日付は2008年4月28日。英医療機器メーカー、ジャイラスを買収した直後のものだ。ジャイラス買収にかかった2100億円の費用を回収するのに、どれだけの年月が必要かを投資家に説明するIR資料作成を相談する内容となっている。

 この資料によると、ジャイラスを2100億円も出して買収する価値があることを投資家に説明することが、いかに難しいかがうかがえる。一部を抜粋してみよう。

 「買収価格&買収手数料を利益で回収しようとした場合、回収には20年以上かかる(20年目でまだ500億円近く未回収部分が残る)」

 「その理由は、全体の約70%を占めるRevenue Synergyが買収後急速に立ち上がるのではなく、45°右肩上がりで成長し後半に大きく育つという形のため、現在価値に直すと非常に厳しい(=価値が高くない)」

 メールに書かれているように、未回収部分として500億円近くが残ってしまうのなら、やはり2100億円は過大な支出であることの証拠であろう。そして買収当時から、オリンパス社内でも買収価格が高過ぎるという認識がすでにあったことも示している。

 また「対応策」として、これを糊塗するためのアイデアまで併記されており、欺瞞に満ちた内容だ。投資家への背信が組織ぐるみで行われていたことの証拠にもなるのではないか。

修正後も不明朗な財務諸表

 買収金額が高過ぎるのなら、当然のれん代の額も過大に計上されているはずだ。しかし、問題が発覚してから修正した後の貸借対照表をみると、のれん代の額はわずかに減った程度で、ほとんど手つかずとなっているようだ。すでに連結自己資本が428億円しかなくなったオリンパスにとって、のれん代を思い切って償却すれば債務超過に転落する恐れが生じ、上場維持できるかどうかの問題に直結してしまうからだ。

 しかも昨年12月の記者会見では、ジャイラス自身が過去に行った企業買収に伴って発生したのれん代は、オリンパスの貸借対照表ののれん代に反映されておらず、「その他」に隠されていることをついに認めた。これは筆者が月刊誌FACTA8月号で指摘したポイントの一つだ。

 こうした不透明な会計処理を認めた監査法人には、やはり責任が生じるであろうが、監査役等責任調査委員会の報告書ではこの点についての記述はない。訂正後の財務諸表に不明朗な点が残ってしまえば、他企業によるオリンパスへの出資にも悪い影響が出ないとも限らない。

 今月6日にマイケル・ウッドフォード元社長が委任状争奪戦を断念する記者会見を開いた。実はその前日深夜、筆者はウッドフォード元社長側の招きにより、彼の滞在先で面会する機会を得た。筆者がウッドフォード元社長に「オリンパスは実質的に債務超過ではないかと思う」と言うと、彼は"I agree(私もそう思う)"。

 その席で筆者は、ウッドフォード元社長からこう問われた。

「日本社会はなぜ、サムライとイディオット(愚か者)がこうも極端に分かれてしまうのか」

 自分の立場を危うくしてまで不正を追及しようとする者(筆者の情報提供者たちを指すであろう)のようなサムライもいれば、順法意識が乏しく不正を働く経営陣と、それを無批判にほう助しようとする愚か者(オリンパスの一部幹部社員のほか、銀行や国内の大株主も含まれるかもしれない)もいるという意味だ。

 多少大げさに言えば、ウッドフォード氏は「日本人とは何者であるのか」「日本人が守りたいのは何か」を問うているのである。そしてこれは、世界の市場参加者が日本に突き付けている問いかけでもあるだろう。

やまぐち・よしまさ
日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞証券部記者などを経て、フリージャーナリスト
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