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佐々木俊尚が5人の若者に聞く『21世紀の生き方』第1回「ノマド、シェア、そして家もいらないーー私たちはこんな生活をしています」

佐々木: 今日の集まりは、日本のネットメディア史上あまり例のない非常に特異な座談会ではないかと思います。今ネットメディアで、ビジネスやワークスタイルを語ったり、これからの仕事や産業がどう変わるかを語っているメディアは、メジャーどころではいくつもあるんですね。日本では、講談社の現代ビジネスの他に日経ビジネス、ダイアモンド、JBプレスなどがありますが、そういうところで語られてきたビジネスの世界の話というのは、相変わらずレガシーな世界の話が中心でした。

 しかし、ここに今日お集まりいただいた5人の方たちは、知っている人は知っているんだけれど、多分現代ビジネスなどビジネスメディアの主な読者層の人たちにはほとんど知られていないんじゃないかと思います。そこが重要な部分で、今までのビジネスの世界ではまったくあり得なかったような新しいワークスタイルで働く人がたくさん現れてきていて、そういう人たちが一つの大きな圏域を形成しつつあります。

 これは、年齢はあまり関係ないんですね。今日来ている方々も20代の方もいれば30代半ばくらいの方もいます。そんな新しい動きがどんどん出てきているにもかかわらず、相変わらずレガシーなメディアの世界はそこにあまり触れてこなかった、見てこなかった、という状況があります。

 少し流れを振り返ると、2009年、2年半くらい前ですが、僕は『仕事するのにオフィスはいらない ノマドワーキングのすすめ』という本を光文社新書から出しました。その頃に「これからはフリーランスになる人が増えて新しいワークスタイル、新しいライフスタイルを追求する人が出てくるだろう」ということを書いたんです。当時は「ないよ、そんなもん」「何を空想論を語っているんだ」という反応が圧倒的多数でした。僕もそれが現実になるのはまだ大分先かなと思っていました。

 その本のなかで、イギリスの『エコノミスト』という雑誌が「これからノマドという新しいワークスタイルが出てくる」ということを書いているのを紹介して、「イギリスやアメリカで、そういう新しい仕事の仕方をする人が出てきているよ」ということを書いたんですが、日本ではまだ当時そういう人は現実にあまりいなかったんです。

 そういう状況で、無理矢理自分の友人などを探し回って、ノマドをやっている人を見つけて取材して書いたのですが、気づいてみるとこの2年間で劇的に状況が変わりつつある。多分、震災が後押しした部分も相当あるんじゃないかと思いますが、世の中に安定的なものは何もない、と。

 不安定になればなるほどみんな安定的なものを求めたがるんですが、もう何が安定的かすら誰もわからない状況になって、10年先どころか1年先も真っ暗闇みたいな状況のなかで、とにかく目の前の会社にぶら下がるのではなく、新しい仕事の仕方をしましょう、好き勝手に楽しくやりましょう、というので、変な仕事の仕方をする人がどんどん現れているわけです(笑)。

 驚いてしまうのは、今日来ている人のなかには、家も持っていないで仕事をしている人までいるということで、ホームレスとどこが違うのかよくわからないという(笑)、そういう生活の仕方をする人さえ出てきている。今日は理念とか空想論とか抽象論を戦わせるのではなくて、そういう新しい圏域のなかで生きている人たちが、いったいどんな仕事の仕方をしていて、いったい何を求めているのかという、その具体的なところまで切り込んでみたいと思います。

 そういうわけで、この5人を知らない人も多いでしょうから、最初は自己紹介からお願いします。ではまず、米田さん、お願いします。

家がなくても仕事はできる

米田: 米田智彦と申します。フリーの編集者の仕事をしていました。編集というと出版業界の編集という印象が強いですが、もう今はそういう状態ではなくて、WEBの編集もありますし、イベントの企画や司会もやらせていただいているので、自分では「現代編集者」という肩書きを作って名乗っています。

 あとは、コンテンツを作る人間でもありますので、「コンテンツディレクター」、本を書くので「文筆家」と、この三つの仕事をやっています。去年USTの本を3冊編集プロデュースして、ライブメディア、ソーシャルメディアの最先端に自分から突っ込んでいって著者といっしょに作ったんですが、つながることが前提の世の中が当たり前に来ているな、と感じています。

米田智彦さん(コンテンツディレクター/編集者) http://nomadtokyo.com/

 つながることが前提だったら、今度はリアルな住む場所、働く場所、あとは出会うことが前提の人、それがメディアやエンターテインメントなどのコンテンツになるな、という予感があったので、今年から今までとは真逆のリアルなほうにいってみようということで、シェアとか断捨離とかいろいろな方向性がありますが、「ノマドトーキョー」という自分の生活実験企画を立ち上げました。

 マンションを全部引き払い、荷物も全部捨てて、捨てきれないものはトランクルームに入れて、ソーシャルネットワークの縁をたどったりして暮らしていくという企画です。あとは都市の恵みというか、東京ってそれをうまく活用できていないだけでいろいろなものがそろっているので、そういったものを活用しながら、どこまで働いて生活していけるかな、と。

 先ほどの佐々木さんのお言葉にもありましたが、昔からフーテンとか風来坊みたいな人はいたんですが、僕は働きながら旅をする、旅をしながら働く、その先に何が見えてくるのかな、というのを、誰にも頼まれていないのに自分の実験としてやっています。もやもやしているけれど、その先に何かがあるだろう、という直観があって、今年の1月の11日からそういう活動を始めました。

佐々木: 決まった家はないんですね?

米田: さすがに冬はちょっと辛いので、実は今月借りてしまいました(笑)。それまでは、夜は仕事をしなければいけないので、ソーシャルメディアで「今日泊まりに来ませんか?」とか、そういうことを1月から毎日やっていたんです。最初は個人の家で、そこから数珠つなぎでバトンを渡されるようにというか、人間バトンのような形で移っていきましたが、基本的には敷き布団があることを前提条件にしてもらって、掛け布団はタオルを重ねれば何とかなる、みたいな生活でした。

 そういうことをやって、「ああ、意外とイケるな」というところがあったりしました。それを1ヵ月くらい続けた頃に驚きだったのが、シェアハウスのメーカーさんやデベロッパーさんが、「オープン前のシェアハウスに住んでくれ」と言ってこられたことで、そこに僕が住んで、そこで出会った人たちと毎晩USTの中継をやったりするんです。

 「今日は○○さんのお宅にお邪魔しています。ゲストは××さんです」みたいな形でUSTの番組をやっていたんですが、それを各シェアハウスでやって、「このシェアハウスはお風呂が良いですね」とか「設備はバッチリですね」というようなコメンタリーをすると、内覧会に10人くらい来てくれる、みたいな感じですね。シェアハウスの運営の方としても「こいつは意外と使えるんじゃないか」というふうに思われたようで、予期せず「個人広告塔」のようなわけのわからない仕事を作り出してしまいました。

 そういうことをやっていたら、若い人を中心にそれぞれの自治や運営のやり方でいろいろなシェアハウスが運営されていることがわかってきて、あとで紹介しますけれど、ギークハウスさんなんかだとプログラマーとかいわゆる「ギーク(コンピュータ系技術マニア)」と呼ばれているような人々を中心に活動されているわけです。

 この番組を企画したプロデューサーの「トーキョーよるヒルズ」の高木君がやっているシェアハウスは、都会のど真ん中で六本木ヒルズから見下ろされているような場所にあったりする。

 シェアハウス自体がある種メディアであったりコンテンツになっていて、それぞれ特徴があるんですね。「このシェアハウスはビジネス誌だ」とか、「このシェアハウスはカルチャー誌だ」というような。

 さらに、それぞれのシェアハウスのなかでまたイベントがあって、「今月の特集はこれこれです」みたいな形になっている。僕はそういうところに興味を感じて、トーキョーよるヒルズやギークハウスに行くようになりましたし、縁と縁の結び付きのようなものを考えるうえでも、「いきなり泊まりに行く」というようなあり方は、なかなかダイレクトでおもしろいと思います。

佐々木: では、次は玉置さん、お願いします。

玉置: はじめまして、玉置沙由里と申します。WEB上では「MG」というペンネームで活動しています。このペンネームの由来は話せば長いのですが、今は高校時代の綽名だったという程度の説明に留めておきます。元々2007年からブログを始めて今も書いているんですが、京大生だった頃は「女。京大生の日記」として書いていて、その後社会人になったので「女。MGの日記」に改題して続けています。元々ブログを書くことを仕事にすることはまったく考えていなかったんですが、2010年に風向きが変わったということがありまして、これもあとでお話をします。

玉置沙由里さん(ライフスタイルクリエイター/ブロガー) http://d.hatena.ne.jp/iammg/

 それで、ブログを書きながらいろいろと実験をしようということでは米田さんとスタンスが近いのですが、1年前に米田さんと知り合って以来「兄貴」と呼んで慕っています。今もいろいろ実験していますが、私自身も家がなくて、いろいろなところで仕事をしています。いろいろな人の家に行くとか、シェアハウスの一室を借りている、というような形です。

佐々木: そういうのは、女性として不安はないんですか?

玉置: とくにないですね。あまり女性ということは意識していません。家はあるんですが、固定の家がないという感じですね。なかには月数万円くらいで借りているところもありますし、そういうところをいろいろ点々と回っているような感じです。

佐々木: 仕事はどんなことをしているんですか?

玉置: いろいろとやっていますが、最近はWEB上にサロンを作っていて、そのサロンに参加するのに1ヵ月1口1000円というような形で小口のパトロンを集めて、100人限定ということで始めたんです。コミュニティのような形で、普通にFacebookのグループみたいなところでやっているんですが、それを募集して3ヵ月で100人集まったとか、あとはリアルでサロンを開催したり、企業のコンサルをやったりしています。

 基本的には私は、震災前の2010年から風向きが変わっていると思っていて、個人がどんどん情報発信できたり、自分で直接お客さんを見つけていろいろできるようになっているので、今は冒険的な姿勢が必要なのかな、と思っています。新しい社会が出現しているので、それをパイオニアとして探訪していくというか、危険な目にも遭うかもしれませんが、いろいろ試してみて今までの常識にとらわれない生き方をする必要があるのかなと思います。

 それで、最近私は「第8大陸冒険家」といっていて、今までサイバースペースから新しい知が拡がり出すというふうにいわれていたのですが、それはリアルとリンクする大陸と変わらないわけですから、もう一つ新しい大陸ができたようなものだという認識で、「第8大陸」と呼んでいるんです。そこの社会をどうしていくの? ということを議論する必要があるんですが、それについての議論はあまり行われていないな、と思います。

佐々木: 第8大陸というのは、アメリカ大陸とかヨーロッパ大陸というようなリアルの世界の七つの大陸があって、そこに第8番目の大陸としてサイバー空間が出てきたというようなイメージなんですね?

玉置: そうです。そこの住民に私はすごく興味を持っていて、まず自分がそこの住民になっていこうかな、と思って、いろいろ実験しています。

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