「新聞の印刷・宅配をやめ、電子端末を無料配布せよ」が現実に。米書店大手バーンズ&ノーブルがニューヨーク・タイムズ購読者にタダで電子端末「ヌック」を提供

2012年01月12日(木) 牧野 洋
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 3年前に有力インターネット新聞「ハフィントン・ポスト(ハフポスト)」の共同創業者ケネス・レーラーが描いた世界が現実になりつつある。2011年2月24日の当コラムで紹介したように、彼は2009年春にコロンビア大学ジャーナリズムスクールで行った講演で、次のように語っている。

 〈 「キンドルなど電子書籍端末が安くなり、性能が向上するなか、ニュースを紙に印刷する意味はますます薄れている。

 ニューヨーク・タイムズが新聞を印刷し、宅配するのにどれだけコストがかかっているのか、調べてみると面白い。年間購読者全員にキンドルを無料で配るコストの2倍である。「直ちに印刷所を閉鎖せよ」ということだ」 〉

 そのうえで、既存の新聞経営者に対してこう警鐘を鳴らしてしている。

 〈 「単刀直入に言えば、いわゆる「破壊的イノベーション」を受け入れろ、ということだ。それに抵抗する人は、過去15年間に起きたことを理解していない。抵抗すればするほど、貴重な時間が浪費されるだろう」 〉

 当時、アマゾンが販売していた第2世代電子書籍端末「キンドル2」は359ドルで売られていた。レーラーによれば、ニューヨーク・タイムズを印刷し、宅配する年間コストは359ドルの2倍、すなわち700ドル以上に達するというわけだ。99ドルのヌックシンプルタッチの7倍以上だ。

 ニューヨーク・タイムズが新聞の印刷・宅配を全面停止してコストを浮かせれば、700ドル以下の電子端末を全読者に対して毎年無料提供してもお釣りがくるということだ。700ドル以下にはアップルの人気タブレット端末「iPad(アイパッド)2」も含まれる。

 繰り返しになるが、今回のヌック無料戦略ではバーンズ&ノーブルが販売店機能を担う。一定の条件を満たした読者に対してヌックを無料提供するのは、ニューヨーク・タイムズではなくバーンズ&ノーブルなのである。日本の新聞販売店が読者にタダで配る映画観賞券やビール券などの景品に相当するのがヌックといえる。

 ただし、ヌックの無料提供に伴うコストをバーンズ&ノーブルが全面的に負担するのかどうかははっきりしない。IT(情報技術)誌「ワイアード」の記者ティム・カーモディーは1月9日付のブログで「おそらくバーンズ&ノーブルは新聞社・雑誌社側とコストを折半しているのだろう」と書いている。

 経営悪化を背景にバーンズ&ノーブルは傘下の電子書籍端末・コンテンツ事業をスピンオフ(事業の分離・独立)する検討に入ったばかり。アマゾンが79ドルの廉価版キンドルを売り出すなどで攻勢をかけているだけに、バーンズ&ノーブルは条件付きながらも「無料」という大胆な戦略を打ち出さざるを得なかったようだ。

 西海岸のカリフォルニアに住んでいる私は、東海岸を地元にするニューヨーク・タイムズを紙で読んでいる。同紙は全国紙的な地位を築いており、西海岸でも印刷・宅配されるのだ。同時に、時と場合によってはパソコンやiPad上で同紙の電子版も読んでいる。宅配購読者であると電子版に無制限にアクセスできることから、宅配の前日に電子版で面白い記事を読んでしまうことも多い。

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