野田政権に重くのしかかる「女性宮家」問題
「緊急の課題」に浮上した皇室縮小の危機[皇室]

46歳の誕生日を前に記者会見される秋篠宮さまと紀子さま。「皇室を維持するには一定の数が当然必要」と語った=東京・元赤坂の秋篠宮邸で11年11月22日、代表撮影

「女性宮家創設」の話題がここに来て急浮上してきたが、霞が関は「民主党政権はもう一つ重荷を担いでしまうのか」と、その行く末を冷ややかに見守っている。消費税率引き上げを伴う税と社会保障の一体改革、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)など重要課題が山積する野田佳彦内閣。近い将来の皇室縮小の危機感が募る中、民主党内のみならず国論を二分しかねない皇室典範の改正に手を付けられるかどうか、先行きは極めて不透明だ。

「女性宮家創設」の話は、読売新聞が昨年11月25日付朝刊で、羽毛田信吾宮内庁長官が10月5日に首相官邸を訪れ、野田首相に「要請した」と報じたことから急浮上した。「要請」した事実はなかったが、報道された日の朝の定例記者会見で記者の質問に対して、藤村修官房長官が次のように答えた。

「今後、安定的な皇位の継承を維持することは国家の基本にかかわる事項であり、政府としても、国民各層のさまざまな議論を十分踏まえながら、今後、検討していく必要があるという認識だ」

 ただ、付け加えて「具体的な制度創設の検討ということに、今直ちに入るということではない」「段取りがあるわけではない」「(検討に入ることも)ございません」などと述べ、具体的に政府が典範改正に向けて準備に乗り出したわけではないことを強調した。

 政府として皇室の現状認識を披歴したことにとどめたというのが実態だった。

 この官房長官の発言について、皇室を世話する宮内庁幹部は「痛しかゆしだなあ」と感想を漏らした。政府が皇室の将来について「緊急性の高い課題」として認識し、検討の必要性を公の場で訴えたことによって、国民が皇室の現状認識を深めるきっかけになったことはよかったという。

皇位継承問題の〝トラウマ〟

 その一方で、官房長官発言でも分かるように、女性宮家の設立を皇位継承問題と絡めて認識されることに一抹の不安を感じているというのだ。皇位継承問題に絡む典範改正では、国は一度失敗した〝トラウマ〟を抱えているからだ。

 05年の自民党の小泉純一郎内閣で、「皇室典範に関する有識者会議」が提言した「女系天皇容認」を柱とする典範改正に向けての動きが具体化した。その時の政府は「皇室典範改正準備室」を設け、改正法案も準備し、06年春にも国会に提出するばかりになっていた。ところがその年の2月、秋篠宮妃紀子さまの第3子懐妊が明らかになり、この動きがストップした。しかし動きが止まったのはご懐妊だけが理由ではなかった。

 典範改正に関しては自民党を中心に「日本の皇室は男系男子が万世一系で継承している。女系天皇を認めることは天皇家以外の血筋が入る」として、「女系天皇反対」を唱え、神社界など保守層を動員した反対運動を盛り上げていた。当時、天皇陛下も皇室のことで国論が分裂するような状況に憂慮されたという。

 羽毛田長官は、野田内閣に限らず、自民党政権時代から内閣が代わるたびに時の首相に皇室の現状と課題を説明してきた。天皇陛下はじめ皇族の高齢化の問題もあるが、最大の課題は、陛下の孫の世代の皇位継承資格者は5歳になった秋篠宮家の悠仁親王1人しかいないことだ。

 さらに、「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」(皇室典範12条)ため、両陛下の長女紀宮さまがそうであったように女性皇族は結婚すると皇籍を離れなくてはならない。皇太子ご夫妻の長女愛子さま、秋篠宮ご夫妻の長女眞子さま、次女の佳子さま、さらに三笠宮系統の5人の未婚の女性皇族がいるが、結婚すればいずれは皇室から離れることになり、陛下の孫世代は、いずれ悠仁親王1人になってしまい、皇室が縮小することは目に見えている。

 それによって将来的に考えられる最悪のシナリオは、国民の間で皇室自体の存在感が希薄になり、皇室不要論までも惹起しかねないことだ。

「女系天皇」容認は、こうした「皇室の危機=国家体制の危機」を回避し、将来的にも安定的に皇位を継承でき、また皇族の数を一定程度維持できる制度改正だったのだが、男系男子派の根強い反対で頓挫してしまった。

 しかし、皇室の危機は相変わらず続くどころか、年々、未婚の女性皇族は、結婚適齢期に近づいている。秋篠宮家の長女眞子さまが10月に20歳を迎えた。両親が知り合ったのは20歳前後のことだ。時間が限られている、まさに「緊急の課題」だ。

 そうしたデッドロックに乗り上げている中で浮上したのが、反対も多い皇位継承資格を女性皇族に広げる改正は一旦、棚上げし、女性皇族が結婚しても皇室に残れるように女性宮家創設だけに絞って典範を改正するという考えだ。

 一部の学者が以前から唱えていたが、宮内庁関係者では、天皇陛下の側近だった渡邉允前侍従長が、07年6月に侍従長を勇退後、著書の中やマスコミの取材に「女性宮家創設」を語るようになり、注目されていた。最近文庫化された自著の後書きで「皇位継承の問題とは切り離して考えるべきで 、(中略)仮に、将来、結婚された後も皇室に残られた女性皇族のお子さまが生まれた場合に、その方の皇位継承資格があるかどうかは、将来の世代がその時の状況に応じて決めるべき問題」と記し「我々にはその世代の手を縛る資格はない」と強調している。

 小泉内閣以降の歴代内閣が国論や党分裂を恐れて避けてきたこの問題に野田首相は敢然と挑戦しようとしているように見える。首相の皇室に対する思いはことのほか強いようだ。だが、TPPなど他の政策もそうだが、どのような形で実現するのかその道筋がいまだ見えていない。典範改正問題からも、野田内閣のみならず民主党政権の今後が占えるかもしれない。

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