ドイツ
現代の世界を表す、傑作だが悲しくもあるジョーク
日本のメディアが報じないシリア、ハンガリーの実態
シリアのアサド大統領〔PHOTO〕gettyimages

 面白いジョークを入手した。まだ新年が明けたばかりだが、私のランク付けでは、すでに今年のベスト3に入る。

「先進国が、その他の国々で起こっている食糧の欠乏を解決するための率直な意見を募るために、世界各国でアンケートを実施することになった。しかし、アンケートは各国において、ことごとく不調に終わった。失敗の原因は次のようなものである。まず、アフリカ人は、"食糧"が何であるかを知らなかった。また、西ヨーロッパ人は、"欠乏"という言葉を知らず、一方、東ヨーロッパ人は、"率直"とはどうすればよいものかがわからなかった。さらに、中国人は"意見"という言葉を知らず、アラブ人は"解決"という言葉を理解できず、アメリカ人は"その他の国々"というのが何のことかわからなかったからである」。

 中国人は、最近はデモをしたりして、声を上げ始めているので、"意見"という言葉の意味を知らない国民は、北朝鮮人に替えたほうがいいかもしれない。あるいは、"意見"のないのは日本人? 

 いずれにしても、これは傑作だが、悲しいジョークだ。食糧に関しては、当たっているだけに悲しい。地球の人口はどんどん増え、食糧の供給が追い付かない。しかも、気候の変動や木の切り過ぎで、多くの土地が砂漠化したり、洪水になったり、あるいは、内戦で踏みにじられたりして、耕作地として使えなくなっている。生きるために必要なだけの食糧もなく、あちこちでたくさんの人間が飢え、たくさんの子供が死んでいく。

日本では報じられない想像を絶するシリアの実態

 しかし、真の問題は、その他の場所では実は食糧はあり余っており、しかも、大量に捨てられているという現実だ。ドイツ人も私たち日本人も、欠乏という言葉は知っているが、実際の欠乏の苦しさは知らない。物心ついたときから今に至るまで、食べ物は常にたくさんある。お腹がペコペコになるとしても、それは一時的なことで、2日続けてお腹を空かせている人を私は知らない。周りにいるのは、「また、食べ過ぎた」と文句を言っている人ばかりだ。

 また、アラブ人が"解決"という言葉を理解しなかったというのも、いい得て妙だ。確かに、アラブほど紛争の多いところはない。誰が味方で、誰が敵なのかも、よくわからない。問題が解決したという話は、そう言えば聞かない。

 チュニジアやエジプト、リビアなどで民主主義を望む人々が立ち上がり、独裁政権を倒したのは去年のことだった。しかし、喜んだのも束の間、先週12月30日の未明には、エジプトの秘密警察が、カイロにある複数のNGO組織の事務所に何の前触れもなく押し入り、コンピューターや書類を没収していった。民主主義政府のすることではない。

 一方、想像を絶するのはシリア。こちらは、ドイツでは毎日トップニュースの一つだ。EUの警告も、アラブ連盟の呼びかけも無視して、軍がデモをする国民を撃ちまくっている(アサド大統領本人は、自分は命令しておらず、軍が勝手にやっていると主張している)。12月末、アラブ連盟の視察団がシリア入りしたが、こちらもあまり本気でやっているとは思えない。反政府派の人間がドイツのテレビで、「視察団の1人が、メモをするから紙と鉛筆を貸してくれと言った。どれだけたるんでいるかがわかるだろう!」と憤慨して訴えていた。デモの参加者は、すでに5000人以上が殺されたという。

 アサド大統領は次男で、もともと大統領になるはずではなかった。首都ダマスカスで医学を学び、その後ロンドンに留学していたが、長男が交通事故で亡くなり、国に呼び戻されたのだ。つまり、故カダフィ大佐などとは違い、西側の高度な教育を享受したインテリであり、民主主義とは何であるかも良く知っているはずだ。

 なのに大統領になってからは、父親の血塗られた恐怖政治をそのまま踏襲し、粛清で独裁を強めた。ロンドンでの生活体験も、高踏な教養も、民主化のベクトルとはならなかったのかと思うと、なんだかがっかりする。この調子では、国民が力尽きて諦めるまで弾圧と攻撃が続きそうだが、アサド大統領にしてみても、いまさら引くに引けないのだろう。亡命をしても、デン・ハーグの国際裁判所に引き渡される危険は消えないし、攻撃の手を緩めれば、カダフィ大佐の二の舞になる可能性が高い。国民の血は、まだまだ流れそうだ。

 それにしても、リビアで国民が立ちあがったときは、すぐさまNATOが援助に乗り出し、数ヵ月間にもわたって主要都市を空爆したが、シリアに対しては、ヨーロッパは声明や抗議ばかりで、行動に移らない。どこにでもすぐに介入するアメリカ軍も、今回は何もしない。石油がない国はどうでもよいのか、それとも、現在イラクから引き揚げ中のアメリカ軍は、危険な物には近寄らず、なるべくスムーズにアラブから離れたいと思っているのか? 

 いずれにせよ、イラクはアメリカ軍がいなくなったら、再び混沌の海に沈む可能性は高いし、リビアはすでに部族争いの幕が切って落とされた模様。チュニジアのほうは、新政府はできたが、詳しいことは何も聞こえてこない。アラブの民は、やはり解決という言葉を知らないのかもしれない。

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