6月「貸金業法の完全施行」に高まる懸念
借入利用者の50%が総量規制の対象に

6月に迫った改正貸金業法の完全施行が経済・社会的混乱を引き起こすのではないかと懸念する声が強まっている。

 年収の3分の1を超える貸し付けを禁じる総量規制などが含まれていることの周知が徹底されておらず、突然、借り入れ不能になる消費者が多発しかねないというのだ。

 さらには、思い余って過去の過払い金の返還請求に踏み切る消費者の急増が予想され、過払い金の返済負担が原因となって経営危機に陥る貸金業者が相次ぐことも危惧されている。

ところが、鳩山政権には、一向に混乱回避に乗り出す気配がない。総量規制の実施を先送りすると、貸金業者規制の強化を求める人々から反発を買い、世論の支持が低下するリスクがあるからだ。亀井静香金融担当相らは、7月に参議院議員選挙が迫っている以上、火中の栗を拾いたくないというのである。

「全党一致で決まった法律、そのものをどうこうする状況ではない」。

報道によると、3月5日の閣議後の定例記者会見で、亀井金融相はこう語り、なんとも歯切れが悪かったそうだ。このとき、記者団が問いただしたのが、改正貸金業法の完全施行問題だったのだ。

 そもそも改正貸金業法が成立したのは2006年12月のこと。かねてより「サラ金地獄」などと報じられていながら、長年に渡って放置してきた消費者金融問題にメスを入れて、多重債務者を減らすことが狙いだった。

 国民が借金地獄に陥り、重い金利負担や、行き過ぎた取り立てに遭わないよう対策を講じるという趣旨に、反対する人はまずいないだろう。国会でも当時、超党派の賛成が集まり、可決・成立した。

 同法はこれまで、3度に分けて施行されてきた。第1次(07年1月)が超高金利の貸し付けや無登録での営業を対象にした罰則規定の強化。第2次(07年12月)が取り立て規制の強化や業務改善命令制度の導入。そして第3次(09年6月)が貸金業務取扱主任者の国家試験の創設、貸金業を営むための最低純資産額の2000万円への引き上げ、といった具合である。

 そして、今回が総仕上げだ。同法の規定は、政府に対して、6月18日までに、
(1)借りる人の年収の3分の1を超える貸し付けを禁止する「総量規制」、
(2)上限金利の15~20%への引き下げ、
(3)貸金業を営むために必要な最低純資産額の5000万円への引き上げ――
など、残りの規制をすべて完全に実施に移すことを義務付けている。

経営者の半数が「法改正」を知らず

 これまで同法の効果はあったのだろうか。日本弁護士連合会が、昨年11月30日の「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」(金融庁の政務3役で構成、座長は大塚耕平金融担当副大臣)で行った意見陳述によると、「貸金業法改正を契機として官民は一体となり、多重債務問題の改善に向けた取り組みが進んでいると」しており、かなりの成果があがったと言ってよいようだ。

 具体的には、同連合会は「5件以上無担保無保証の借入れを行っている者の数」(多重債務者の一つの指標である)は、2007年2月から2009年5月の間に100万人以上減少した」、「自己破産の件数についても、2003年の24万件をピークとして、2008年には13万件と減少した」などと述べている。

 ただ、貸金業者の激減や雇用の消失といった副作用も小さくなかった。

 たとえば、沖縄では2008年7月、地元最大手のノンバンク、オークスが破たんした。沖縄県は、本土から進出した貸金業者にとって、他の地域と比べて若年層の失業率が高い半面、失業者でも家族の結びつきが強く意外に返済能力が高いといった地域の特殊事情が把握できないと審査がやりにくい土地柄だ。それだけに、主要な借入先を失った形の地元消費者が受けた衝撃は小さくなかった。

 全国的にみても、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が日本子会社レイクを売却して撤退した例があった。この撤退劇は、日本では、消費者金融が構造不況業種になったことを鮮明にする経済的事件と受け止められた。

 金融庁によると、貸金業者の数は、ピークだった1986年に約4万7000社も存在したが、2009年10月末までにわずか10分の1の4752社に激減した。こうした産業としての貸金業の衰退には、改正貸金業法に盛り込まれた数々の規制強化に加えて、最高裁の判例によって過払い金の返還請求が従来よりも容易に認められるようになったことが大きく影響したとされている。

 こうした状況、金融界や証券アナリストの間からは、「(改正貸金業法が)官製不況を招いた元凶だ」「消費者保護の重要性は理解できるが、だからと言って、貸金業という産業を消滅させてしまうようなやり方は、行き過ぎではないか。結果的に潤っているのはクレサラ弁護士(クレジットとサラ金に関連した係争を主に扱う弁護士の意味)だけではないか」といった批判が根強いのも事実である。

 こうした中で、住宅、自動車、医療などの資金を除くとはいえ、6月に貸金業法の完全施行が実施されて総量規制などがスタートすると、「多くの消費者が新規融資を受けられなくなり、自己破産や夜逃げを迫られかねない」(外資系証券会社アナリスト)と懸念する声が少なくない。というのは、日本貸金業協会が「現在借り入れのある1万3728人」を対象に調べたところ、「50.2%の借入利用者が、年収の3分の1以上の借り入れがあることが判明した」からだ。彼らは総量規制の対象となることになる。

 また、経営者と個人事業主を対象に事業性資金の借入先の調査を実施したところ、1位が銀行の54.2%、2位が信用金庫・信用組合の33.6%となっているものの、貸金業者も12.9%で5位にランクされており、依存度が低くないことが明らかになったという。ちなみに、経営者と個人事業主は、個人で借り入れた資金を事業用に転用した経験のある人が39.1%おり、このうちの22.3%は現在も借入残高があるという。

 ところが、改正貸金業法の完全施行についての認知度を調査したところ、「内容を含めてよく知っている人」と「ある程度は知っている人」の合計は、借入利用者の場合が49.5%、経営者・個人事業主の場合が49.6%にとどまっている。つまり、いずれも、過半数が知覚していないというのである。

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