2012.01.24(Tue) 本郷 明美

「日本人は何を食べてきたか」第7回 正岡子規
闘病のため、いくらでも食べた男

筆者プロフィール&コラム概要

まさに「獺祭」のごとし 病床の周りを彩る名産たち

 獺祭書屋主人---。

 俳人正岡子規のもうひとつの号である。

 獺(カワウソ)は、獲った獲物を並べておく性質があり、そのにぎやかなさまを「獺祭」 と呼ぶ。

 一方子規は、書物を部屋のそこらじゅうに片っぱしから並べておく。言ってみれば「片付けられない男」! その「獺祭ぶり」は友人たちを驚かせたという。

 そして今、子規の晩年を振り返れば、違った意味で、いえいえ本来の意味での「獺祭」ではなかったかと思う。

 ほとんど動けない病身の身ながら、子規のもとには各地の名産品、さまざまな珍しい食べ物が集まってきた。残された記録を見ると、そのにぎやかなこと! 

「近日わが貧厨をにぎわしたる諸国の名物は何々ぞ。大阪の天王寺蕪、函館の赤蕪、秋田のはたはた魚、土佐のザボン及び柑類、越後の鮭の粕漬、足柄の唐黍(とうきび)餅、五十鈴川の沙魚(はぜ)・・・」。(『墨汁一滴』)

 まだまだ続く。紹介しきれないが、中でも美味しそうなものをちょいと並べてみましょう。

 石見の鮎の卵、仙台の鯛の粕漬、下総の雉等々、デパートの物産展も真っ青。気になったのは、「甲州の月の雫」なるもの。これ、和菓子だった。江戸末期、ある菓子職人が甲州葡萄の粒を誤って砂糖蜜の中に落し、拾い上げて食べたところすばらしく美味しかったことから生まれたのだとか。現在は甲州葡萄を、求肥に包んで作っている。子どもの頃から果物が大好きだったという子規。この「月の雫」という風雅な菓子も、さぞ喜んで食べたことだろう。

 葡萄の他、梨、西瓜、林檎、無花果、レモン、桃やパイナップルのかんづめ。子規の日記には日々の食事が記され、そこにはほとんど必ず果物が登場する。

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