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 お酒を飲んだ翌日に朝起きてみたら酒席の途中からの記憶が全くないのに、家にきちんとたどり着いていたという経験を持つ方も多いと思います。後で同席していた人に自分の様子を聞くと、楽しそうにカラオケで歌っていたとか、ちゃんと割り勘の計算をして、幹事の役割を果たして電車に乗って帰って行ったなどと言われて、記憶がないにもかかわらず泥酔していたわけではなく、案外ちゃんと行動できているので自分でも不思議に感じることがあります。

 英語ではこうした一時的記憶喪失現象を「ブラックアウト」と呼びますが、時間的には数分から数時間の記憶がない状態です。米国・ミズーリ州セントルイス市にあるワシントン大学医学部の和泉幸俊教授らがThe Journal of Neuroscience 2011年7月6日号に発表した研究で、過度な飲酒によるアルコールが脳細胞を殺してしまうので記憶がなくなるのではなく、アルコールによって、ニューロン間の接続を強化し学習と記憶に不可欠な長期増強(LTP)プロセスを抑制するステロイドが、ニューロンで産出されるようになるためであることがわかりました。

 教授らはラットの脳にある海馬の細胞を使って、アルコールが神経細胞に与える影響を研究しました。ニューロンの神経伝達プロセスを詳しく分析したところ、アルコールがニューロン間の信号伝達に関与するグルタミン酸を透過するNMDA受容体(N-メチル-D-アスパラギン酸受容体)の活動を、半分まで低下させることで、ニューロンにステロイドを産生させ、そのステロイドがニューロンのシナプス可塑性を阻害して、長期増強と記憶の形成が損なわれるという一連のプロセスが明らかになりました。

 教授らはこの5アルファレダクターゼ阻害剤を使用したところ、アルコールによってこうした事態が生じないことが確認されたということです。5アルファレダクターゼ阻害剤は前立腺肥大の男性患者に使用されていることから、教授らはこれらの薬を服用している男性はアルコールによる一時的な記憶障害になることが、もしかすると少ないかもしれないとしています。

医療ジャーナリスト 宇山恵子
The Journal of Neuroscience 2011年7月6日号


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