日経新聞は2月19日夕刊の1面トップで、米連邦準備理事会(FRB)が公定歩合(discount rate)を現行の0.50%から0.75%に引き上げることを報じた。夕刊とはいえ、1面のデカ見出しは読者に強烈な印象を与える。米国での利上げの連想が働き、円相場は一時ドル高・円安に動く局面もあった。だがこの記事は、読者をミスリードする内容だったと思う。
まず、FRBの公式文書を確認しておこう。そこには、「この措置は、家計や企業に対する金融引き締めではなく、金融政策の変更でない」と書かれている。
規制金利の時代、FRBから金融機関への貸出金利である公定歩合は最低金利であり、政策金利としても意味があった。だが、'83年に金利自由化が完了すると、政策金利はフェデラルファンド金利という金融機関同士の金利に移行。公定歩合はそれより高く設定されるようになった。
要は、金融機関が他の金融機関から借りられないときに、その金利より高い懲罰金利でFRBが貸すというわけだ。金融危機が一段落して金融機関の動揺も収まったのに、懲罰金利が低いままではFRBが金融機関の援助をしていることになる。それで、金利を引き上げたというのが現実だ。
しかも、今回の措置は事前にFRBから予告されていた。10日、バーナンキFRB議長の下院公聴会での証言が大雪のために延期されたが、証言原稿は予定通り10日に公表された。その中で、公定歩合は政策として意味はないものの、近いうちに引き上げると書かれている。
また、その後に発表された公式文書を見ると、予告文をコピペしたような内容だった。つまり、冷静に見れば今回の利上げは、それほど大きなニュースではない。実際、海外メディアでの扱いはそれほど大きくない。ほとんどがベタ記事だ。どうも日本だけがはしゃぎすぎているように思える。
背景には、日銀と日経新聞の特別な関係があるような気がする。日経は、もちろん日本を代表する経済紙だ。
日本にも公定歩合があった時代('94年の金利自由化により「補完貸付制度適用金利」に変更)、日経の日銀担当デスクは公定歩合の変更と日銀総裁人事を他紙に抜かれると左遷させられるという噂があったくらい、日銀に食い込んでいる。逆に言えば、日銀への批判は御法度で、むしろ擁護に回るのが日経の基本スタンスだ。
このことを踏まえて、最近、何があったかを見ておこう。
16日、菅直人副総理兼財務相はインフレ目標の導入を日銀に求めたが、白川方明日銀総裁は断固拒否する方向だ。これに対してウォール・ストリート・ジャーナルは「遅きに失した日本のインフレ目標議論」と報じて日銀の頑なな姿勢を批判した。
日経としては、金融緩和に消極的だとして政府や海外マスコミから責められる日銀に援軍を送りたかったはずだ。それが、19日の夕刊トップ記事なのではないか。
直接的に日銀を応援するのではなく、FRBは公定歩合を上げたという報道によって「アメリカは金融緩和ではなく、引き締めの方向に向かっている」ことを伝え、「だから日本も金融緩和など論外」と示唆して日銀の姿勢を支持している・・・ように読める。
金融引き締めでもなんでもなく、単なる懲罰金利の引き上げにすぎず、しかも海外ではあまり報じられなかったことが1面トップになると、どうしても邪推してみたくなるものだ。
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