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フランスの大ピンチ
ゆるやかな「取り付け騒ぎ」が始まった

もうお手上げ〔PHOTO〕gettyimages

 今夏、ギリシャの国債危機が世界中のメディアで騒がれていた時、よく語られたセリフがある。

「この危機が伝播して、超大国フランスにまで波及すれば、ユーロは崩壊する」

 現実は周知の通り、欧州の国債危機はギリシャからイタリア、スペインときて、トリプルAという最上級格付けを持つフランス国債をも呑み込む「最終段階」に入った。

「イタリアもフランスも同じような財政問題を抱え、財政健全化に向けて迅速な行動をとってきたのに国債価格が急落。さらに財政健全な優良国であるドイツ国債までもが入札が不調で『札割れ』した。欧州ではどの国も市場の信頼を得ることが難しい状況。財政や景気がいい悪いという個別問題よりも、どこが影響を受けやすいかという相互関係で売られる『金融システム危機』が起きている。それがいまの欧州危機の本質だ」(日本リサーチ総合研究所主任研究員の藤原裕之氏)

 ユーロの問題は各国の「財政危機」から「金融危機」へと、ステージを越えた。これを笑いながら眺め、大儲けを演じていたのがヘッジファンドだ。

 彼らにとってはいとも容易いディール(取引)だった。何せフランス国債が早晩にして大量売りされることを示す「シグナル」が、マーケットにはいくつも転がっていたからだ。

 まず夏場にサルコジ大統領が表明した緊縮財政策。「フランスは北欧と同様に公的セクターが大きい経済構造。そのため夏場以降に講じられている財政緊縮策が実行されれば、経済成長が鈍化し、回りまわって財政改善が進まない悪循環になることはわかりきっていた」(ニッセイ基礎研究所主任研究員の伊藤さゆり氏)。この時点で一部のヘッジファンドはカラ売りポジションを確保、「フランス暴落」に向けた仕込みを始めたとされる。

 さらに10月に入ってEU首脳会議が合意した新たな「銀行の自己資本規制」がヘッジファンドにヒントを与えた。

「欧州の銀行が自己資本比率を9%にするという目標を課せられると、保有する南欧債の価格が下落するのに伴い、資産を投げ売ることが予想された。資産の中で手っ取り早く売れるのが流動性の高い国債だった」(SMBC日興証券シニアエコノミストの渡辺浩志氏)

 もちろんそこにはフランス国債も含まれるため、銀行による大量売りを見越し、ヘッジファンドがカラ売りポジションやフランス国債暴落で儲けられるCDSなどへの投資を積み増したことは想像に難くない。

預金を引き揚げた大手企業

 時期を同じくして実は、欧州の銀行では「緩やかな取り付け騒ぎ」が始まっていた。

「ギリシャはもちろんのこと、イタリア、スペイン、ポルトガルなどで、自国の国債を大量保有する銀行の経営悪化を懸念した預金者が、カネを引き出してドイツの銀行に移し替えた。フランスも例外ではなく、ドイツの大手エンジニアリング会社・シーメンスがフランスの大手銀ソシエテ・ジェネラルから預金を引き揚げていた」(慶応義塾大学商学部教授の深尾光洋氏)

 フランスの危機が水面下で〝爆発寸前〟を迎える中で、フランス暴落に賭けるヘッジファンドの数は増加を続ける。そしてついに、イタリア国債が破裂。「フランスの金融機関のイタリア向け債権残高は海外勢の中で最も多く、イタリア国債が急落すれば次はフランスだという連想が起きる」(前出・藤原氏)のは必然で、事実、イタリア国債暴落に引っ張られるように、2%台で推移していたフランス国債(10年物)の金利は、3.6%まで上昇。この過程でヘッジファンドは高速でカラ売りやCDS売買を繰り返し、短期間で暴落を増幅させながら、儲けを膨らませていた。

 これが現在に至るヘッジファンドによる食い千切りの実態だ。ただこれで終わりではない。フランス国債が〝危険水域〟まで落ちる「最悪のシナリオ」をヘッジファンドは虎視眈々と狙っているのだ。

 材料はある。

 一つは来年春に行われる大統領選挙。「社会党のオランド氏が当選すれば、現在行われている教員の削減などが中止され、社会保障などへの予算配分が増える」(パリ政治学院講師のレミ・クーファー氏)ため、財政再建が滞ることは間違いない。

 また一つにはフランス国債の格下げ懸念が燻っており、「格下げされれば、フランスが支えているEFSFが弱体化、それはEUの崩壊をもたらす」(フランス人ジャーナリストのマルチーヌ・オランジュ氏)ほどの巨大イベントとなる。

 さらに直近では12月9日に予定されているEU首脳会議で、ユーロ圏共同債の発行の是非が議論の中心になる。これが認められればフランスも一息つけ、ユーロ危機に対する「最後の一手」とされているが、反対姿勢のドイツがフランスと対立する綱渡り状態が続いているのだ。

 きっかけは何でもいい。一つでも火種が着火したとき、ヘッジファンドは「売り」の猛攻をしかけ、国債を暴落へと導く。

 あるヘッジファンドマネージャーはこう語った。

「歴史上またとない、フランス国債へのカラ売りチャンス。国債の投資はレバレッジが100倍までつけられる。仮に1兆円規模の大手ヘッジファンドが狙えば、極論すれば100兆円のカラ売りも可能だ」

「その日」に向けて、彼らはこっそりと、そして大量に、ポジションを積み始めている。

「週刊現代」2011年12月17日号より

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