菅直人が「消費税引き上げ」に転向した理由
小沢問題の行方は「マルサ」の手に

 2010年度政府予算案が3月2日、衆議院を通過した。

 民主党にとっては昨年秋の政権奪取以来、政権運営でもっとも大きな関門を抜けた格好だ。

 自民党の閣僚経験者からは「(鳩山由紀夫首相と小沢一郎幹事長の)ツートップがカネのスキャンダルを抱えながら、すんなり予算が年度内成立の運びになってしまうとは・・・」と嘆き節が漏れる。

「せめて子ども手当法案の成立を遅らせて6月支給を止めないと、7月の参院選に響く」と焦りの色も濃い。

 別の閣僚経験者は
「与謝野(馨)さんが『あなたは平成の脱税王だ』と鳩山首相を挑発したとき、首相はつい『母親に聞いてもらってもいい』と口を滑らせた。あのとき、追い討ちをかけて『では、しかるべき人を派遣して事情を聞く』と言えばよかったんだ。追及が甘かった」
と悔しがった。だが、いまとなっては後の祭りである。好機にヒットを打てなかった自民党が敵に塩を送った面もある。

 だが、これで民主党は安泰かといえば、とてもそうとは言えない。

 懸案だった米軍普天間飛行場の移設問題は2月12日の当コラムで指摘したように、社民党を切り捨てる形で前進する見通しが出てきた。社民党の反対を押し切ってキャンプ・シュワブ陸上案で決着する展開になりつつある。

 自民党からの移籍組が加わって民主党と国民新党の2党で参院過半数を確保できたのだから、県内移設に反対する社民党の意向を忖度する必要がなくなってしまったのだ。

 ただ、米国側がこれで納得するとはかぎらない。

 普天間問題は米国にとっても大事だが、根本的には米国が鳩山政権を支える意思があるかどうかが試されることになるだろう。鳩山政権は「4年間は衆院を解散しない」と言っているのだから、米国にとって普天間問題の決裂は少なくとも残り3年半、日本を失うリスクを抱えることになる。

 半面、かつてフィリピンのクラーク空軍基地とスービック海軍基地から撤退した米国の過去をみれば、米国が普天間で妥協しても日本を大事にすると甘く見るのは危険だ。普天間問題は鳩山政権にとって、なおリスクであり続ける。

 もっと大きなリスクは小沢問題かもしれない。

 メディア報道は小沢不起訴を境に一挙に下火になってしまったが、小沢捜査が完全に終わったわけではなさそうだ。もう1人、別の閣僚経験者が語る。

「まだ脱税の線が残っている。検察は完全にあきらめてはいない。押収した資料の分析作業を続けていると聞く。今回は土地購入代金になった4億円の出所が問題になったが、新進党と自由党の解党時に残った20億円近い資金の流れがまだ解明されていない。今後はそこに焦点が当たる可能性がある」

 2005年収支報告書によると、小沢の関係政治団体である改革国民会議には自由党から12億6221万円余、改革フォーラム21には新生党から6億9571万円余がそれぞれ引き継がれている。合計20億円近いカネだ。改革国民会議が自由党から引き継いだ12億円の中には、本来なら国に返済すべきであるはずの政党助成金も含まれている。

 自由党が解党した日に改革国民会議に資金が寄付されていた問題は、かつて国会でも「国への返還逃れではないか」と追及された。法的には合法であっても、国民感覚からすれば「道義的にいかがなものか」という疑問が残る。

 こういうカネの扱いが容認されるなら「政党を作っては壊し」を繰り返せば、政党助成金だけが膨らんでいくということになりはしないか。もとは国民の税金だ。税金が関係しているのだから、土地代金の4億円問題より、むしろこっちをしっかり解明してもらいたいと私は思う。

 今後、国会でも疑惑解明と制度のあり方について議論を深めてほしいところだ。

 もしも脱税で捜査続行となれば、政権の深層構造も大きく変わる可能性がある。

財務・国税と手を握ったのか

 捜査の行く末は検察だけでなく、国税の「マルサ」がカギを握る形になる。この点はきわめて重要である。いくら強調しても足りない。最高実力者、小沢一郎の命運を左右するのは財務・国税になるからだ。

 振り返ってみれば、小沢は藤井裕久前財務相の就任に難色を示していた。

 藤井はかつて小沢の側近として党の内部事情を知る立場にあった。その後、小沢に遠ざけられて離反した。そんな藤井を、国税を管轄に収める財務相というポストに就けるのは危険と小沢が考えたとしても、不思議ではない。国税庁は財務省の外局である。財務相の腹一つで自分の命運が決まりかねない事態になってしまう。

 その藤井が政権を去って、代わりに菅直人が財務相に就いた。

 いまや、菅の立ち位置は絶妙だ。財務・国税に指揮権を発揮できるということは、すなわち小沢に対する切り札を握ったも同然なのではないか。そういう視点からみると、菅が財務相になったとたん、消費税引き上げに舵を大きく切ったのも意味深長だ。財務・国税と手を握ったかのようなポーズは小沢に対する牽制と読めなくもない。

 政策面でも、これから菅の出番が控えている。

 5月には中期財政フレームと財政運営戦略をまとめ、6月には新成長戦略をつくる。その後は参院選に向けた政権公約(マニフェスト)の見直しが控えている。菅は財務相であると同時に副総理、経済財政政策担当の内閣府特命担当大臣でもあるから、財政にも成長戦略にも、マニフェスト見直しにもかかわってくる。

 政局と政策。舞台裏と表舞台。菅の動きから目が離せなくなってきた。

(文中一部敬称略)

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