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 いつも疑問に思うが、政府の「円高対策」はいったい誰のための対策なのだろう。第3次補正予算に盛り込まれた円高対策は、リスクに負けない強靱な経済の構築、円高による「痛み」の緩和、円高メリットの徹底活用という三本柱で、予算規模は約2兆円だ。

 その中身は、産業空洞化防止のための企業の国内立地補助金に5000億円、省エネルギー・新エネルギー導入支援の一環として創設される「節電エコ補助金」に2000億円、介護や環境・エネルギー分野の雇用創造事業基金2000億円などのほか、雇用調整助成金の要件を緩和する雇用の下支え策強化や中小企業へのセーフティネット保証、政府系金融機関からの貸付などが並ぶ。

 このほかに円高メリット活用策として、国内企業による海外企業のM&A(合併・買収)や海外資源確保の活性化のため、外国為替資金特別会計を使った国際協力銀行への融資枠を現行の8兆円から10兆円に拡大するというから、なかなか威勢がいい。

 だが、これらは国民のためというより各省官僚の予算ぶんどり合戦だ。しかも、いずれも「対策」の名に値しない「事後の対症療法」でしかなく、さらに言えば企業立地補助金などは円高が進む限り企業の海外移転の流れは止まらないので、その効果は少ない。新分野雇用創造事業基金、雇用調整助成金の要件緩和なども、円高を止めなければ、血税の無駄遣いになる。

 なぜこうなるのか。為替の決定要因について、政府は根本的に間違った理解をしているからだ。「ファンダメンタルズ(経済の基礎的要因)を反映して」自然現象のように外から与えられるもの---政府は為替をこう捉えて、その一時的な過度の動きを介入などによってコントロールするという立場に立っている。

 しかし、本欄の読者には常識だろうが、為替は両国の通貨量の比率に密接に関係している。現在のように米国のFRB(連邦準備制度理事会)がドルを大量に刷っているのに、日本では日銀が円の発行に慎重になっているような状態では、円が相対的に少なくなって価値が高まり、円高になる。

 この基本原理すら政府はわかっていないから、いっこうに円高は止まらない。その一方で政府は、「米国経済やユーロ財政に問題がある」と、責任を海外に求めている。米国がドルを刷れば円高、刷らなければ円安となるような、FRBに翻弄される為替相場では「対米従属」ではないか。円を刷るという日本の主権はどこに行ったのか。

 中小企業へのセーフティネット保証や政府系金融機関からの貸付は、典型的な官僚の仕事作りになる。日銀が円を刷って本来の金融緩和を行えば、実質金利が下がって民間金融機関の融資が活発になるが、それをしないから政策金融の出番になるのだ。外為特会を使った国際協力銀行の活用に及んでは、円高を放置しながら、財務官僚の存在意義を示す象徴的仕事になっている。政府の円高無策の中で官僚のやりたい放題だ。

 野党自民党も情けない。円を刷って円安にすると、名目GDPが増えて税収が伸びる。事実、小泉・安倍政権時代は1ドル=120円程度で推移していたため、増税なしで凌いでいた。ところが今の執行部は円高容認だ。円高抜本策のない第3次補正に賛成したのも、マニフェストで公約した消費税増税実現を狙ってのことかと疑いたくなる。

 この国には、まともな円高対策を唱える政治家はいないのか。

週刊現代2011年12月17日号より


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