本当に県民を愚弄しているのは誰か。谷津憲郎朝日新聞那覇総局長の「防衛局長発言」コラムが明かす朝日沖縄報道の「構造的差別」

佐藤 優 プロフィール

 なんとも間抜けだが、私は例の発言を聞いていない。では、もし聞いていたら記事にしたか。参加したのが自分ではなく同僚で、そう報告を受けたら「書け」と指示したか。いまこう書くのは大変気が重いが、たぶん記事にしなかったのではないかと告白せざるを得ない。酒の席で基地問題を男女関係に例え、政府が意のままに出来るかのように表現するケースは、防衛局に限らず、時々聞いたことがあるからだ。

 1995年の少女暴行事件に限らず、沖縄では戦後、米軍による性暴力の被害を数々受けてきた。発言が不適切だという指摘は、その通りだ。だが、根っこにある問題も見過ごしてはいけないと思う。

 国は辺野古で、まさに発言通りの行為をやろうとしてきた。県内移設を拒む沖縄県民の意思に反し、「理解を得て」と言いながら是非を許さず、金を出すからとなだめ、最後は力ずくで計画を進める。下劣な例えだが、もっと下劣なのは現実の方だ。

 私にとって不快なのは、発言した田中局長よりも、発言の後でも評価書の年内提出を言いのける野田政権の方だ。「事実だったら言語道断」「心よりおわび申し上げる」とトップが言いながら、1日の審議官級協議で米国に約束履行を表明する外務・防衛省の方だ。私に言わせれば、彼らは酔ってもいないのに「それでも犯し続ける」と言っているのに等しい。

 騒ぎの末に政府が謝ったのは、自分たちの行為ではなく、言葉の使い方だけだ。本質は変わっていない。本当に沖縄を愚弄(ぐろう)しているのは誰か。本土に目を向けてほしいのは、むしろそちらの方だ。 〉(12月3日、朝日新聞デジタル)

那覇総局長は同席していたのか、いなかったのか?

 ちなみに朝日新聞の本件に関する第一報の冒頭を引用しておく。

〈 沖縄防衛局長「犯す前に言いますか」と発言 辺野古巡り

 沖縄県名護市辺野古への米軍普天間飛行場の代替施設建設に向け、政府が環境影響評価(アセスメント)の評価書の提出時期を明言しない理由について、沖縄防衛局の田中聡局長が28日夜の報道各社との非公式の懇談で「これから犯す前に犯しますよと言いますか」などといった趣旨の発言をしていたことがわかった。複数の出席者が語った。女性への性的暴行に例えた発言で、沖縄県内で反発の声が広がりそうだ。

 懇談は28日夜、那覇市内の居酒屋で行われ、沖縄県内の報道機関約10社が参加。朝日新聞社は、発言時には同席していなかった。田中局長の発言は、沖縄の地元紙・琉球新報が29日付朝刊1面で報じた。(以下略) 〉(11月29日、朝日新聞デジタル)

 ここで、「朝日新聞社は、発言時には同席していなかった」と明確に記されている。「同席していなかった」とは通常の日本語の用い方で考えるならば、物理的に居合わせていなかったことを指す。筆者が調べたところでは、この懇談は午後8時に始まり、田中氏が「これから犯す前に犯しますよと言いますか」と発言したのは、午後9時半過ぎのことという。谷津氏は、「あの夜、1時間ほど遅れて居酒屋につくと」と述べている。

 それならば、谷津氏は物理的に田中氏が不適切発言を行った場に居合わせたことになる。谷津氏の「私は隣のテーブルで報道室長と話し始めた」、「なんとも間抜けだが、私は例の発言を聞いていない」という記述を総合的に判断すると、不適切発言の現場にいたが、聞き逃したと釈明していると読むことも可能だ。