読者、広告主の新聞離れが進む中で
日経の電子版は成功するか?

 日本経済新聞社(以下「日経」)が2月24日に「日経新聞 電子版」の詳細を発表した。紙媒体の新聞は、読者の「新聞離れ」が指摘され、他方で日経に限らず新聞の広告費収入が急激に落ち込んでいる。新聞の電子版が発表されるのは大いに予想されるところであったが、電子配信する内容と価格設定が大いに注目された。

 ネット内の評判をざっと眺めると、価格設定に対して、あまり評判が良くないようだ。

 電子版の購読料は、単独の場合月額4000円、紙の新聞を購読している場合、現在の購読料(朝夕刊地域なら4383円、全日版地域3568円)プラス1000円と設定された(いずれも税込)。

 端的に言って、電子版を読みたい人が紙版の日経新聞をキャンセルしないことを中心に考えた価格設定に思える。これでは読者に電子版のメリットがない、と見えるからだろう。

 電子版は、記事を紙に印刷して配達するという、小さくないはずのコストがかからない訳で、特に追加的な(経済学で言うところの「限界的な」)配信のコストは限りなくゼロに近い。「常識的にはもっと安くできるはずではないか!」と思うのだろう。

 現時点で、この常識をそのまま実現した例は、「産経新聞」のiPHONE版だ。産経新聞の紙面そのままが無料で全文読める。

 大きな紙面がほとんど無加工でそのまま送られてくるので、さながらiPHONEをルーペ代わりに新聞を読んでいる感じだが、手元に常に当日の新聞があるという安心感と、これを無料で読めるお得感は悪くない。

 日経にとって現実的な悪夢の一つは、定年退職した団塊世代読者が日経新聞を読まなくなることだ。産経のiPHONE版がPC画面で見られたら、この種の読者にとって魅力的な選択肢になるに違いない。現状の「産経iPHONE版」は、字が細かくて大方の団塊読者の視力に厳し過ぎることは、日経にとって幸いだったというべきだろう。

毎月1000円+の価値はあるのか

 では、日経電子版はもっと安くあるべきなのか。現時点のビジネスの問題としては、そうでもないだろう。

 商品としての「日経新聞」は需要の価格弾力性の小さな商品だ。たとえば「朝日新聞」は月額購読料が3925円で日経新聞よりも安いが、だからといって、日経の読者がどんどん朝日に流れるというものではない。日経が必要なビジネスパーソンは多少価格が高くても「日経新聞」を読み続けるだろう。

 同時に日経新聞は価格を下げたからといって急に読者が増えるような商品ではない。正確には分からないが、読者が急増する価格ゾーンは、現在の価格のかなり下(間違いなく半分以下!)ではないだろうか。

 この状態で、紙版の日経新聞よりも魅力的に安い価格で(たとえば月額1980円で)紙版と同等の記事内容をカバーする電子版を発売するとどうなるか。電子版を読む環境を持っている読者には、紙版と電子版はお互いに代替可能だから、相当数の読者が、紙版の購読をキャンセルして電子版に移るだろう。

 しかし、ネットの無料情報に慣れていて、「日経を読まなければ仕事に差し支える」といった事情の無い読者にとっては、電子版日経は「かなり読むのでなければ元が取れない」し「どうしても必要なときには、友達に見せて貰えばいい」程度の効用しかない。もっともっと安い価格でなければ、電子版日経を新たに購読しようとはしないだろう。

 こう考えると、今回の日経の電子版の価格設定が不評であることは、日経をもっと安く読みたいという読者のニーズが十分あることの表れでもあるから、日経は少し自信を持っていい。

 日経にとって短期的な(当面の)問題は、1000円の追加料金を払って電子版を契約してくれる顧客がどれくらいいるかだろう。契約者数が少ないと、コンテンツの相当部分を既存のものから流用できるとはいえ、電子版の開発・運営コストが回収できない。現在発表されているコンテンツが一般のビジネスマン読者にとって毎月1000円の価値があるかどうかが問題だ。

 現時点では、それぞれのサービスの簡単な解説と画面イメージしか公開されていない。コンテンツのどこまでが無料でどこからが有料になるのかも分かりにくい。

 しかし、新聞を実質的にコンパクトに持ち運べること、金融マーケット関連のQUICKを使うと思われるデータや朝刊と夕刊の間のニュース、統計データ、過去記事(5年分)の検索などを合わせると、筆者には、まずまず魅力的に思える。但し、それは、筆者が仕事で本連載のような原稿を書いているからかも知れない。

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