経済の死角

周波数オークションは携帯電話会社にとって本当にBad Newsなのか?
~周波数の供給を拡大するリアルオプション型オークション制度の提案~

2011年12月01日(木) 吉川尚宏
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文:吉川 尚宏

携帯電話会社は優れたデベロッパー

 たとえてみれば、携帯電話会社は三井不動産や三菱地所のような優れた都市開発のデベロッパーなのである。もっとも、大手不動産会社とは異なり、自ら不動産は保有しない。市場価格で取引される定期借地権を購入し、非効率的に利用されている不動産を付加価値の高い不動産へと蘇らせる事業を営んでいるのである。

 周波数オークションとは周波数の効率的な利用を促すインセンティブシステムであるが、もともと優秀なデベロッパーによる、より付加価値の高い不動産利用を動機付けるシステムであるだけでなく、優秀なデベロッパーである彼らに地上げを促し、土地を取得させるシステムでもある。周波数オークションをめぐる議論の中で、後者の点はこれまで見落とされがちだったのではないだろうか。

携帯電話会社にとって、周波数オークションはBad Newsか?

 11月21日に開催された行政刷新会議では電波行政のあり方もとりあげられ、第3.9世代携帯電話からオークションは導入すべきであり、またオークション収入は一般財源とすべきという提言がなされた。ただ、その後、携帯電話会社や総務省からはこの提言方針に反対する動きも出ているという。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/27991

 特に第3.9世代携帯電話用の周波数である900MHzからオークションを導入することについては、法案改正が間に合わない、制度設計に時間がかかるという声も出ている。周波数への需要は今後も増加するが、基地局の増設、WiFiの活用など、需要増加への代替的対応策は存在する。たとえば最も周波数が逼迫している通信キャリアといわれるソフトバンクの場合、1MHzあたり45.2万の加入者を抱えているが(2011年10月末現在)、NTTドコモの場合は同数値は42.2万で大きな差異はない(ちなみにKDDIは37.6万である)。基地局の増設やWiFiへのオフロードである程度、逼迫は解消するであろう。

 制度設計に要する時間も本質的な問題ではない。だいたい、900MHzの開設指針(案)など、改正電波法が今年の6月1日に公布されてから、わずか4ヵ月余り後の10月21日に公表されているくらいなのである。

 むしろ、携帯電話が飽和状態にある中で周波数オークションが導入されることが、業界に新たな経済的負担を生むというのが大筋の見方であろう。だが、この見方は真実であろうか。

 筆者は実は現在、通信業界には大きな構造変革が起きていると考えている。それは固定ブロードバンドから無線ブロードバンドへのシフトである。今後5年間で、固定ブロードバンド市場は年平均1.9%しか伸びないが、無線ブロードバンド市場は年平均で9.1%成長し、また携帯電話市場も年平均で5.6%増加し、2011年度の6.9兆円が2016年度の9.0兆円へと2.1兆円増加するという予測も最近出てきている。
http://www.nri.co.jp/news/2011/111124.html

 単身の若年層などでは、固定ブロードバンドなしで、無線ブロードバンドだけで生活するというようなケースも今後大幅に増加するであろう。これは固定通信事業を営むものにとっては大きな脅威だが、携帯電話事業を営むものにとっては新たな機会である。

 携帯電話における定額制のデータ通信の導入は、消費者の料金高騰への不安を緩和し、ユーザー層拡大に貢献した反面、収入の天井を自ら構築することになってしまった。ただ、ここ最近、再び従量制が導入される傾向にあり、携帯電話のARPU(月額利用金額)は上昇する可能性も出てきている。

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