東京電力の株式で運用していた「エコファンド」の効果と限界
「社会的責任投資」は自分でやりなさい
東京電力は土壌、大気、さらには海洋に至るまで有害な放射性物質をばらまいた環境破壊企業の立場に立ってしまった。〔PHOTO〕gettyimages

 社会的責任投資(SRI)の一カテゴリーに、「エコファンド」と呼ばれる特に環境への取り組みに対して好ましいと判断される企業に投資する運用商品がある。日本でも十数年前に登場し、一般向けにも複数の商品がある。

 また、より範囲の広い企業の倫理性と社会貢献を重視する「SRI」でも、環境問題に貢献の大きな企業には高いポイントが与えられて、その株式や債券が投資対象になることが多い。SRIは年金基金などを対象にマーケティングされることが多く、その場合、「世界的に巨額の資金がSRI運用に投資されている」と付け加えられるのが通例だ。

 さて、不幸な東日本大震災が起こり、続いて「想定外」とも「人災」とも言われている東京電力福島第一原発の事故が起こった。責任問題の帰趨はさて置くとしても、東京電力は土壌、大気、さらには海洋に至るまで有害な放射性物質をばらまいた環境破壊企業の立場に立ってしまった。

 特に、汚染水の海洋投棄があってからは、それまで同情的な面もあった海外メディアの論調が変わって、東電、ひいては日本が、不運な被害国の立場から、環境破壊の加害国として冷視されるようになった。

 このような東京電力ではあるが、エコファンド、あるいはSRIを名乗るいくつかのファンド商品のファンド資産の運用にあって、組み入れ対象になっていたことが判明した。

 実際に何本のSRI、あるいはエコファンドが、東京電力の株式や債券を持っていたのかが明らかではないので社名は挙げないが、ネットで検索して運用報告書をみるだけでも、証券系の運用会社、あるいは信託銀行系の運用会社のこの種のファンドに、最近まで(少なくとも昨年のある時点で)東京電力の株式が組み入れられていたことが分かった。

 東京電力をCSR(企業の社会的責任)に於ける優良企業と見ることが妥当であったかは、議論のあるところだ。原子力発電を炭素ガス排出の面から見た環境に優しい発電と見ると、そう判断することが一概に悪かったとは言えまい。一つの判断ではあった。

 但し、原発事故発生後の対応は運用会社によって異なるようだ。

 先の証券系の運用会社が東電株の処置を含めて何も発表していないのに対して、信託銀行系の運用会社は先ず関連ファンドで東電株を売却し、その後、原発問題への対処を見つつ東電をSRIの投資候補群から外す決定を行ったことを会社のホームページなどを通じて発表した。

 後者は潔いともいえるが、一つには、親会社が年金運用の顧客を多く抱えているので、顧客筋の意向に配慮した側面もあるだろう。

 ある企業の活動が、たとえば地球環境の維持向上といった社会貢献にかなっているのか否かという問題はなかなか判断が難しい。

 たとえば、ハイブリッド車などで燃費の向上を果たした自動車メーカーは、地球環境に貢献したとも言えるし、そもそもガソリンを燃やしたり電力を使う場合でも発電のためにも環境に負荷をかけたりする自動車という製品自体が環境破壊的であるとの判断も出来る。

 東京電力のように原子力発電をも行う電力会社の場合は、原発の安全性の点で判断が鋭く対立することになる。安全と見るなら、温室効果ガスの排出の点で原発は環境負荷の小さい地球に優しい発電方法だし、事故があり得るという観点に立ち、今回の福島第一発電所のケースなどを参考にするなら、原発は反地球環境的な発電方法であり、エコファンドやSRIファンドの投資には馴染まないだろう。

 こうした状況下で、電力会社による巧みな宣伝活動の効果もあって、東京電力を前者の意味で積極的に評価した運用会社があったというのが日本のSRIの現状だった、ということだ。

株式より社債のほうが影響力がある

「今後の原発は十分安全でクリーンだ」という判断を掲げて原子力発電所を有する電力会社を組み入れるSRIファンドがあっても、一つの判断として構わないが、顧客の賛同を得にくく、おそらく商売になるまい。

 筆者は、東京電力株を組み入れたエコファンドやSRIファンドの判断や見識を事後的にとがめるつもりはない。「判断力の限界」もSRIの限界の一つだが、筆者が今回SRIの限界として強調したいのは、後述する別の側面だ。

 限界を語る前に、SRIの効果の可能性の側面についても触れておこう。

 東京電力が社債を5兆円近くも発行していることに注目しよう。この額は、日本の社債市場でも大きなシェアを占める。東京電力に限らないが、電力債が順調に消化されないと、電力会社の事業には小さからぬ影響が及ぶ。

 発行企業にとって、投資家が株式を売却することによる株価の下落が、経営者の責任問題になったり、ストック・オプションの価値に影響したりすることがあるとはいえ、資金面では、増資を目指す場合以外に大きく影響することはない。特に、日本の電力会社の場合、株価が経営に与える影響は無いとはいわないが、かなり限定的だろう。

 他方、債券は満期になると順次償還しなければならず、財務的に現状維持しようとすると新たに資金調達しなければならない。つまり、電力債の消化が順調でなくなると、電力会社は事業運営上資金繰りに苦労することになる。

 つまり、原発事業に対する会社の態度をSRI投資家が評価の対象にするとすれば、株式よりも社債に対する判断でメリハリを付ける方法が有効になる可能性がある。

 原発に反対する運動で影響力を行使しようとする場合、活動家が電力会社の株を持って株主総会に乗り込むよりも、電力債に投資する投資家に対して「たとえば、原発縮小に消極的な電力会社に対する資金提供行為を止めて欲しい」と働きかける方が効果的だろう。

 運用としてのSRIは、たとえば海外で、既に債券や銀行の融資を問題にする投資を取り入れているケースがあるようだが、運動としてのSRIは、社債が直接の資金供給であることにもっと注目してもいいのではないか。

 尚、筆者は、日本の原発について、新設を中止すると共に、既設の原発をある程度の時間を掛けて縮小廃止し、別の発電方法なり節電技術なりで置き換えていきたいと考えている。そのために日本の電力コストが上昇ないし十分低下しないとしても甘受していいと考えている。加えて、核燃料の最終処理を含めて、原発の安全確保と環境に対する対策は、日本の電力会社が責任を持って行うべきだ、というのが個人的な立場だ(本稿の論旨には直接の関係はないが)。

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