「通信ドミナント」の規制強化論が急浮上
「光ファイバー公団」構想の悪ノリも

 ライバル会社には容易に保有できない通信ネットワークを所有するドミナント事業者(市場支配的事業者)に対する、電気通信事業法の規制強化を求める意見が、ICT(情報通信)市場関係者の間で高まっている。

 直接のきっかけは、総務省が2月初めにNTT西日本に発した業務改善命令だ。同社の子会社や代理店の問題が大きかったのに、NTT西日本にしか改善命令を発出できなかったことから、「ザル法を早急に改正すべきだとの議論が出て来た」のだ。総務省も前向きに検討せざるを得ないとみられる。

 しかし、この種の市場支配力の乱用は、今回が初めてではない。1985年のNTT民営化以来、何度も繰り返されながら、抜本的な解決ができなかった問題なのだ。このため、ドミナント規制の強化だけでは不十分であり、もう一度、NTTの企業分割を検討すべきだとの議論があることも見逃せない。

 さらには、悪乗りとしか思えない、光ファイバーのアクセス網を国有化すべきだとの議論も高まる兆しをみせている。

 今後、百家争鳴の議論が沸き起こると予想される中で、NTT関連の規制は、いったい、どの程度の内容が妥当なのか。実情をさぐってみよう。

問題の業務改善命令は、総務省が2月4日に発したもの。内容的には、NTT西日本の従業員が、ボトルネック設備(代替設備のない通信インフラのこと、ビンの首のように細くなっているという意味から、こう呼ばれることが多い)を持ち、その設備をライバルに貸与しているからこそ入手できた、「(同社から)他の事業者への電話番号移転(流出)に関する情報」を、100%子会社にあたる「NTT西日本‐兵庫」に漏らしたことが発端だ。この情報は、NTT西日本‐兵庫の従業員を介して、さらに販売代理店にわたり、顧客を奪還するための営業に悪用されたという。

 総務省は、個人情報の保護がないがしろにされただけでなく、通信市場の公正競争を歪めかねない悪質な問題と判断した。そして、NTT西日本に対し、電気通信事業法に基づく業務改善命令を発出したのだ。ちなみに、1985年のNTT民営化以来、NTTグループの企業がこうした業務命令を受けるのは初めてのことである。

空洞化する電気通信事業法

 電気通信市場関係者の間では、この処分を不十分だと見る向きが少なくない。というのは、今回、NTT西日本と“共犯”関係にあるだけでなく、より直接的に公正競争を損ないかねない行為に関わったとみられているNTT西日本‐兵庫と代理店がそろって、総務省の業務改善命令の対象になっていないからである。

 背景には、現行の電気通信事業法のドミナント規制の対象が、NTT東西会社やNTTドコモ、KDDIといったボトルネックの設備を持つ通信事業者に限定されている問題が存在する。

 こうした事情から、電気通信事業法の狭過ぎる規制対象を見直して、NTT東西会社やNTTドコモが実質的に経営権を持つ子会社やその孫会社などの企業も、規制の対象に加えるべきだとの議論が電気通信市場関係者の間で湧き上がっているのだ。

 実際の問題として、NTT各社は過去数年間、主にリストラクチャリングや人件費削減の観点から、数多くの子会社や孫会社を設置して、社員を転籍させたうえで、業務をアウトソースして全体としてのコスト削減を実現してきた。

 その結果、電気通信事業法の規制が空洞化していると懸念する意見は多かったのだ。今回のNTT西日本のケースにおいて、総務省が十分な業務改善命令が発出できなかった点は、こうした懸念の正しさを裏付けたと言わざるを得ない側面がある。

 ただ、問題は、これだけで済むほどことが単純ではないことだ。というのは、ドミナント規制の強化だけでは不十分で、もっと大胆な措置が必要だとの意見も強いからである。こうした意見の論拠は、業務改善命令こそ今回が初めての例だが、公正競争が阻害されるケースはこれまで何度も繰り返されてきたことにある。

 一例をあげると、1990年代前半には、当時、独占状態だった市内電話網への接続を、1社体制だったNTTが「技術的な問題がある」などと称して、長期間にわたって放置することが多発した。これが原因で、新型の付加価値通信サービス(フレームリレーやVPNなどの例があった)の事業化が遅れたとして、長距離電話会社が郵政大臣に対して、それまで前例のなかった「通信回線の接続命令」の発出を求める騒動が起きたことがある。

 また、2000年代初頭には、やはり、NTTがなかなか通信網の開放に応じようとせず、それによってADSLサービスへの新規参入を妨げているとして、公正取引委員会が注意処分に乗り出す“事件”もあった。

 さらに、最近では、通信ベンチャーの日本通信が決算発表の席で、大幅な業績の下方修正を余儀なくされた原因として、NTTドコモから「日常的に営業妨害、不当廉売、干渉が行われている」と発言したことなどを受けて、総務省が実態調査に乗り出す問題も起きている。筆者の取材に対して、NTTドコモ広報部は疑いを否定しているが、依然として調査は継続しており、予断を許さない状況だ。

 このように、ボトルネック設備を持つNTTグループの市場支配力の乱用行為を長年にわたって根絶できなかったため、NTT民営化当時から必要性が指摘されてきたNTTグループの構造分割を求める意見が再び勢いを増しているというわけだ。

 形の上では、こうした議論は、ドコモの分離に繋がった1990年のNTT再編論議、持ち株会社のもとでの現行の主要5社体制を決めた1995年のNTT再編論議(実施は1997年)、さらには今年2010年にNTTの再編論議を行うことを決めた自民党政権時代の政府・与党合意などのたびに、繰り返されてきた議論とそっくりだ。

 ただ、1点だけ、明確に違う点がある。それは、ボトルネック設備として、かつては電話の市内網に着目して、これをNTT東西から分離することを求める意見が多かったのに対して、現在はむしろ、光ファイバー網の重要性の高まりを受けて、ブロードバンドのアクセス網をNTTグループから分離すべきだとの声が強くなっていることである。

 現在のところ、詳細な具体論となると、これが有力という案はない。NTTグループから資本関係を完全に切る案、他社の資本参加を認める案、資本関係は残すが社名から「NTT」を外してブランドを分離する案、さらには会社ではなく、ある種の本部制にして「機能」を分離する案など、様々なバリエーションを主張する声がある。

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