賢者の知恵
2010年03月01日(月) 現代ビジネス

「ネットで公開すると売り上げは落ちる」は本当なのか

著書を無料公開した「日本版フリー」の衝撃

週刊現代
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対談  岩瀬大輔×坪田知己〔前編〕

岩瀬大輔
ライフネット生命保険株式会社代表取締役副社長 1976年埼玉県生まれ。東京大学法学部を卒業。ボストン・コンサルティング・グループ、リップル・ウッドなどを経て、2004年にハーバード・ビジネス・スクールへ留学。日本人としては4人目の「ベイカー・スカラー(上位5%の優等生)」を獲得し、ライフネット生命の創業に関わる。著書に「生命保険のからくり」(文春新書)など。

坪田 岩瀬さんは今回、09年10月に出版された『生命保険のカラクリ』(文春新書)の全文をネットで無料公開されると伺いました。まだ新刊で出回っている本を丸ごと無料で公開するというのは、日本の出版界にとってはこれまで考えられない試みです。そもそも、この本の執筆のきっかけから教えてください。

岩瀬 もともと私は、生命保険とはまったく関係のない業界にいました。その頃の生命保険に対する印象は、“複雑”“判りにくい”です。中に入ってみてようやくカラクリが判ってきて、実は簡単なことだったんだと気づいたんです。

 そして、生保業界は、お客さんがよく判っていないのをいいことに、自分たちに都合のいいことだけを言って商品を売っていることも知りました。気づいたことを書きためていたメモをまとめたのが、この本です。08年5月にライフネット生命保険という会社を始めたばかりでしたから、ひとりでも多くの人に会社を知ってもらいたいという気持ちもありました。

坪田 それを今回、無料で公開するのはどういった理由ですか。

岩瀬 会社のこともそうですが、より多くの人に、生命保険の仕組みを知っていただきたいと思ったからです。契約者が生命保険の本当の値段がいくらが知るのは重要なことでしょう。こういった公共性の高い情報の提供は、国や保険業界のすることだと思うのですが、これまでそうしたことが行われてこなかったというのも理由です。

「フリー」にするメリットは何か

坪田知己

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別研究教授 1949年岡山市生まれ。東京教育大学文学部哲学科卒業後、72年日本経済新聞社入社。経済部記者、日経BP社「日経コンピュータ」副編集長などを経て、2005年、新聞業界では初めてのメディアビジネスの総合的な研究を行う「日経メディアラボ」発足に伴い、初代所長に就任。著書に『2030年 メディアのかたち』(講談社刊)など

坪田 クリス・アンダーソンの書いた『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(日本放送出版協会)という本が売れています。あらゆるものが無料になって、ビジネスはその周囲のイベントやスペシャル版で行われていくという事象をまとめたものです。この本はそれ自体も、出版前にその内容が無料で公開され、話題になりました。

岩瀬 私も読みましたが、非常に興味深いですね。今回、無料で公開するというアイデアは、このフリーを意識しています。

坪田 岩瀬さんも、もし書籍として売る前にネット上で無料公開していたら、さらにインパクトがあったでしょう。

岩瀬 そうでしょうね。

坪田 一方で、出版社側は本を出す以上は売り上げにつなげたいと考えるものです。岩瀬さんは、書いた内容を広く知って欲しい。出版社は、より多く売れて欲しい。それぞれしたいことがあって、それがクロスしないとなりませんね。広く知ってもらうためだけなら、そもそも本にしないで、最初からネットだけにする選択肢はなかったのですか。

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