2011.11.27(Sun) 井上 久男

TPPをものともせず、農業をビジネスにしようと努力している自立的な農家
農業生産法人・有限会社「夢前夢工房」

筆者プロフィール&コラム概要

 TPP(環太平洋経済連携協定)の参加を巡って政治は紛糾するが、多くの農家が本音では国際競争は止むなしと受け止めている。すでに企業経営のノウハウを採り入れ、補助金をあてにしなくても産業としてしっかり成り立つビジネスにしようと、努力する自立的な農家も珍しくない。

 農水省の統計を見ても、農地取得が認められる農業生産法人(有限会社や非上場かつ株式の譲渡制限がある株式会社など5形態がある)は1970年には2740社だったのが09年には11064社にまで拡大している。

玉ねぎの出荷の準備をする衣笠氏 (筆者撮影、以下同)

 兵庫県姫路市で、大規模化と地域活性化に主眼を置き活動する農家がある。同市夢前町で稲作や野菜づくりをする農業生産法人・有限会社「夢前夢工房(資本金300万円、従業員19人)」の衣笠愛之社長(50)だ。

 地元では「笑顔の戦士」と呼ばれることもある。いつもニコニコして地域の和を尊びながらも、地元の農協が驚くような「仕掛け」を始めるからだ。

 その衣笠氏が中心となって2012年2月に株式会社「兵庫大地の会」(資本金150万円)が設立される。県内の大型稲作農家21軒が共同出資し、規模のメリットを追求するために、肥料や資材などの共同購買、米の共同販売に取り組む。メンバーが耕す水田の総面積は兵庫県明石市の農地面積をも上回る約650ヘクタール。株式会社が運営する水田面積としては日本最大級の広さになる。

 新設される会社は、兵庫県域(淡路島を除く)にまたがり、単位農協を取引業者として扱えないので上部組織の全農との交渉になるという。会社化されることで、肥料や資材のメーカーとの交渉も可能になるかもしれない。相見積りを取って安いところから購入する計画だ。

 共同購買や共同販売によって規模のメリットを追求することは、ビジネスの世界では何も珍しくない。しかし、農協という村社会の「利権」がいまだに強い地方では、こうした行動は「反農協」と見られ、金融面などで締め付けに遭うケースも散見される。

 たとえば、北海道の大手農協である士幌農協は2006年7月、農協からの資材購入を営農貸付金の条件としたため、公正取引委員会から警告を受けた。09年12月には大分県の大山町農協は、農家に対して農協が経営する販売所以外へ出荷させないようにしたなどとして、公取から排除措置命令を受けている。

 もちろん地方ごとに事情は違うが、このような行動は地元農協と摩擦が起こりかねないケースであるが、「うまく農協と付き合って行くことこそが地域農業の再生に不可欠である」と衣笠氏は語る。

 衣笠氏は米や野菜作りに転じて17年余りの間、農家が相場などに大きな影響を受けず、「価格決定権」をもてば、自立的な経営ができると常に考え、それを実現させるために行動してきた。今回の新会社設立もその流れで実現させた。

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(いのうえ・ひさお) フリージャーナリスト。1964年生まれ。九州大卒。大手電機メーカーを経て92年に朝日新聞社入社。支局勤務を経て95年から経済部記者としてトヨタ自動車や日産自動車、パナソニックなどを担当。04年朝日新聞を退社。フリーに転じてからは講談社や文藝春秋、東洋経済新報社、ダイヤモンド社などの各種媒体で執筆。企業取材のほか、大学改革や農業問題についても取材している。著書に『トヨタ愚直なる人づくり』(ダイヤモンド社)、『トヨタショック』(講談社、共編著)。


井上久男「ニュースの深層」

(いのうえ・ひさお) フリージャーナリスト。1964年生まれ。九州大卒。大手電機メーカーを経て92年に朝日新聞社入社。支局勤務を経て95年から経済部記者としてトヨタ自動車や日産自動車、パナソニックなどを担当。04年朝日新聞を退社。フリーに転じてからは講談社や文藝春秋、東洋経済新報社、ダイヤモンド社などの各種媒体で執筆。