復興よりも先に進む、東電、銀行、財務省を保護する「福島原発賠償策」の異常 1世帯当たり1万7000円の値上げに直結

2011年04月26日(火) 町田 徹
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 こう見てくれば、明らかだろう。最も得をしたのは東電だ。仮に、賠償のために、会社を解体してバラバラに売却する方式や、会社ごと整理する破たん処理、さらには日本航空(JAL)型の国有化などが断行されていれば、東電は跡形なく消えていた。だが、東電は、そういう議論をなんなく封じ、「安定供給」の美名のもとに、生き残りを果たそうとしている。政治力の健在ぶりを見せつけた。

 次に、露骨なのが、この計画が、当面、税金を投入しない計画に仕上がったと評価する論調だ。これは、財政負担の増加を避けたかった財務官僚の思惑と見事に一致している。

 加えて、今回の計画は、東電以外の電力会社に、新機構への資金拠出負担を負わせることを盛り込んだ。将来の事故にも対応可能にするためと言うが、拠出額を巨大にしなければ、そんなことは不可能だ。むしろ、この負担拡大の狙いは、電力会社にも負担を負わせることで、財政への負担を一段と軽減することにあったとみるべきだ。

メガバンクが巨額融資に踏み切った理由

 3番目に得をした人を探る手掛かりは、震災直後に、ビジネスの常識を無視して、気前よく東電に巨額の資金を融通した人たちの存在だ。3行合計で1兆9000億円の無担保融資に踏み切ったメガバンクと、同じく1000億円の融資を実行した日本政策投資銀行である。

 もともと会社整理の際には、銀行融資は債権としての回収順位が低い。加えて、各行は震災後、無担保融資を大盤振る舞いしていた。つまり、破たん処理や国有化が起きていれば、貸し手責任を問われ、大半が債権カットの対象になる。銀行経営者にとっては、経営責任を追及されかねない失態と言える。ところが、政府案で、問題債権の回収に目途が立った。

 実際、以上の点について、電力関係者の中には、今回のスキームは、「(以上の)財務省、東電、メガバンクの3者に、経済産業省が加わって作り上げられたものだ」と明かす向きがあった。

 派生的に、東電の株主がメリットも見逃せない。破たん処理や国有化に伴う100%減資などを免れたからである。東電株は、積み立て貯金感覚で毎月資金を貯めて株式に投資する「累積投資」の対象となる例が多い。結果として、極端に個人株主が多いのだ。それだけに、上場廃止や減資を憂慮していた証券界にとっても、政府案は喜ばしい内容と言える。

 ただ、政府案の議論の過程で、金融関係者の間に、東電の社債がデフォルト(債務不履行)に陥るとして、破たん処理や国有化の反対の論拠にする向きが多かったのは見苦しかった。東電債は、約5兆円の発行残高があり、毎年2000億円前後の新発・借換債が出ているが、ほぼ全てが発電所などを担保にした債券であり、デフォルトリスクは皆無に等しかった。

 しかし、政府案は、関係者全員が得をする、そんな魔法のような存在なのだろうか。本当に、このスキームで機能するのだろうか。

次ページ  残念ながら、答えは否である。…
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