日本は「財政危機」ギリシャの
二の舞になるのか

経済成長に関心のない鳩山政権

 ギリシャの財政危機が深刻化し、24日には政府の緊縮政策に反対する労組がゼネストに突入する事態になった。金融市場は「ギリシャの次はどこだ」と神経を尖らし、ポルトガルやスペイン、イタリアなどが不安視されている。

 では、同じく財政赤字を抱える日本はどうなのか。

 ギリシャと日本は相違点もあるが、共通点もある。

 私は日本でも金利急騰、円株急落という暗いシナリオが現実になる可能性が7割くらいはあるとみる。なんといっても、鳩山由紀夫政権が打ち出している政策に将来を楽観視できるような明るい材料がほとんどないからだ。

 まずギリシャと日本について整理しておこう。

 マクロ経済の枠組みで決定的に異なるのは、ギリシャが「ユーロ」という欧州単一通貨を採用しているのに対して、日本は独自通貨の円を使っていることだ。また経常収支はギリシャが対国内総生産(GDP)比で11.1%の赤字であるのに対して、日本は2.5%の黒字を維持している(数字はOECD、2009年)。

 ギリシャ国債は外国人が7割を保有しているのに対して、日本国債は逆に9割以上を国内で保有している。ただしギリシャの場合、保有している外国人はほとんど英国やドイツ、フランスといった欧州の投資家だ。

 人口はまったく違う。ギリシャは1100万人にすぎない欧州の小国だが、日本は1億2700万人を数える。日本の経済規模はまもなく中国に抜かれるのが確実とはいえ、まだ世界第2位の経済大国だ。

 ところが、似たような点も多い。

 ギリシャは昨年10月に中道左派政権に交代した。今回の財政危機は、新政権になって前政権による統計数字のごまかしが発覚したのがきっかけになった。日本も昨年9月に鳩山政権が誕生した。労働組合が支持母体になっているのだから、こちらも国際標準では中道左派政権である。統計もごまかしとまでは言わないが、前回コラムで指摘したように、発表するGDP値はぶれが大きい。

 財政赤字は似たり寄ったりだ。

 ギリシャは09年の財政赤字が国内総生産(GDP)比で12.7%に達した。政府は10年に8.7%、12年には2.8%まで赤字を削減する目標を掲げ、公務員人件費削減や燃料税増税、年金支給年齢の引き上げなど緊縮策を発表したが、実現は困難視されている。一方、日本の財政赤字は09年でGDP比7.4%である。

 資産から負債を引いた政府の純累積債務はギリシャがGDP比86.1%に対して、日本は96.5%である。日本では、しばしば「借金が800兆円」といった数字が強調されるが、これは負債を除かないグロスである。マクロ的に意味のある数字はネットの数字だ。すると、奇しくも日本とギリシャはほぼ同じといえる。

 とりあえず、以上からなにが言えるか。

 一般論として、財政赤字が拡大して国債の信用が失われた場合、外国投資家は国債とその国の通貨を売り浴びせるので、長期金利は上昇し通貨価値は下落する。

 ところが、ギリシャはユーロ圏に属しているので、金利は上昇したが、ユーロの価値は他国の信用に支えられる形でそれほど下落していない。もしもギリシャがユーロに入っていなければ、いまごろ旧通貨ドラクマは大暴落していたかもしれない。

 では、日本も財政赤字が拡大しているのに、なぜ金利は上がらず、円安にならないのか。これがマクロ経済上の「日本のなぞ」だ。この「なぞ」はずいぶん前から指摘されているのに、あまりに長く続いてしまった。

 エコノミストはなぞ解きに疲れてしまったのか、あるいは「もう、そんな手垢のついた話では商売にならない」と考えたためか、だれも正面からなぞ解きに挑戦しなくなってしまった。

 実は、私自身も2001年に出した『経済危機の読み方 日米「破局のシナリオ」』(講談社現代新書)という本で、この問題解説を試みているのだが、とっくに絶版になっている。

 ごく普通に聞かれるなぞの答えは「日本国債はほとんど国内で保有されていて、家計の金融資産も潤沢だから」というものだ。つまり、外国投資家に頼らずカネが国内で回っているのだから、大丈夫というのである。答えが簡単すぎて、つまらない面もある。

大場元財務官が漏らした「懸念」

 だが、このテーマは再び脚光を浴びるかもしれない。

 まず、日本の稼ぎ手である貿易黒字は長期的に減る傾向にある。実際、08年11月から09年1月にかけては赤字になった。

 もっと重要なのは、鳩山政権が肝心かなめの経済成長に無頓着であることだ。

 鳩山首相はつい最近も所得税の最高税率引き上げや企業の内部留保課税、さらに証券優遇税制の見直しなどに言及した。成長重視なら法人税引き下げがテーマになるはずなのに、ほとんど正反対の方向感覚である。菅直人副総理兼財務相も昨年末には「成長戦略は大事」と言っていたのに、財務相になったとたんに増税論に傾いてしまった。

 財政再建はといえば、たしかに議論を始めようというムードになってはいるが、国民からみれば、大前提である公務員制度改革や独立行政法人はじめ行政改革をなおざりにして増税論議をしようとしても、とても乗れないのは当たり前だ。つまり、政府が信用を失いかけている。

 財政赤字が拡大する一方、金利は上がらず円安にもならない「日本のなぞ」に対する答えを元大蔵省財務官の大場智満国際金融情報センター理事長に聞くと「日本人は為替リスクが嫌いなんだな。外国に投資したくない。だから国内でカネが回る。でも、僕はそろそろ金利に跳ね返ってくると思うよ」という答えが返ってきた。

「では『審判の時』は近づいている?」

「それは、あなたたちメディアがどう書くかだ」

 そう、それを聞いて私は思った。

 政局でも金融市場でも、メディアは相場観を形成するのに大きな役割を果たす。

 私はお手軽な増税論は支持しないが、市場メカニズムはいずれ合理的に機能すると思っている。世界の投資家が「日本の政権はだめだ」と思えば、なにかがきっかけになって本格的な日本売りに動くかもしれない。

 国民から真に支持される大局的な政策対応を誤れば「ギリシャの次は日本」になる可能性がある。

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