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巨大地震の前触れなのか!?
5日間で6cm岩盤がゆっくり滑っていた
房総沖でうごめく
「スロースリップ地震」の不気味

千葉県の浦安市では至る所で液状化が見られた。マンホールが地面から飛び出している光景もあった

「千葉・房総沖でプレート滑り『群発地震誘発も』」(毎日新聞)、「房総沖でスロースリップ観測・・・地震発生早める?」(読売新聞)、「房総沖で『スロー地震』=大震災で間隔短縮か」(朝日新聞)---11月1日、新聞各紙のWeb版に躍った見出しに「巨大地震の再来か」と、肝を冷やした人も多いだろう。3・11の東日本大震災で震度6弱を記録した千葉県では銚子市や旭市に大津波が押し寄せ、14人の命が奪われた。沿岸部はいまだに瓦礫が散乱し、生々しい傷痕を残しているが、再び大災害が起きるのか---。

 防災科学技術研究所と国土地理院は10月31日、千葉県の房総半島沖で10月26日頃から、プレート境界がゆっくり滑る「スロースリップ」が観測されたと発表した。滑った境界は東西約80km、南北約20kmの範囲に及ぶ。

 スロースリップとは聞き慣れない言葉だが、国土地理院・地理地殻活動研究センター・今給黎哲郎氏が解説する。

「従来の地震とメカニズムは変わりません。房総半島沖では陸側の北米プレートが、海側のフィリピン海プレートに沈み込んでいます。その歪みが弾ける時に地震が起きるのですが、スロースリップの場合は、プレートの境界が非常にゆっくりと滑るのです。東日本大震災は、わずか3分ほどの時間に莫大なエネルギーが発散されましたが、今回のスロースリップは、10月26日頃から30日の5日間のうちに、最大6cmの滑りがあったと推定されています。ちなみに東日本大震災のマグニチュードが9.0だったのに対し、今回のスロースリップの最大マグニチュードは6.5であり、身体に感じる有感地震は観測されませんでした。一般的にスロースリップは、それ自体が直接被害をもたらす類の地震ではないと考えられています」

震度5の群発地震を誘発

地図上の矢印は地殻変動が観測された方向と長さを示している。千葉県大原(現いすみ市)の観測地点では南東方向に2.3cm地殻が引っ張られていた(国土地理院の資料をもとに編集部で作成)

 しかし、無害な地震と割り切ってしまうのは早計だ。そもそも、今回の発表が驚きをもって報じられたのは、スロースリップの周期が観測史上最も短い、〝異常〟なものだったからだ。

 東京大学地震研究所の小原一成教授が解説する。

「過去30年間では、'83年、'90年、'96年、'02年、'07年、そして今回と6回のスロースリップが観測されています。平均するとスロースリップの間隔は約6年ですが、今回は前回のスロースリップから4年2ヵ月しか経っていない。3・11の大震災が、日本列島の下にある4つの巨大プレートに作用し、比較的予測が簡単だと思われていた房総半島沖のスロースリップの周期まで乱してしまったと考えられるのです」

'81年の観測開始から30年間で最も短い4年2ヵ月の周期で起きた。詳しいメカニズムは不明だが専門家は東日本大震災の影響が大きいとみている(国土地理院の資料をもとに編集部で作成)

 いまさらながら東日本大震災の破壊エネルギーには驚くほかないが、気になるのが防災科研が発表に付記した、「スロー地震により、プレート境界が固着している部分にひずみがさらに蓄積され、将来地震が発生した場合、規模拡大につながる恐れがある」という物騒な文言だ。

 3・11の大地震で生じたひずみに、長期間圧力が掛かり続ければ、「これから起こりうる地震のマグニチュードを増幅させる可能性がある」(京都大学名誉教授・川崎一朗氏)というのだ。短時間にエネルギーが放出されれば、激震につながることは素人でも理解できる。

 しかし、長期間にわたってひずみに摩擦力が働き続ければ、逃げ場を失ったエネルギーはその分、蓄積されるというのだ。北海道大学・地震火山研究観測センターの勝俣啓准教授が補足する。

「確かにスロースリップ地震は、ごく稀に大きな地震につながる場合があります。『ゆっくり滑り』が数日単位で収束する場合には危険性は低いが、1週間以上も滑り続け、さらに加速度的にスリップが速まり、地滑りの距離が長くなる場合には大地震を誘発する危険性が高まるとされています」

 幸いにも今回の観測ではスロースリップ地震は5日間で収まったとみられるが、日本列島全体が地震の活動期にある今、決して楽観視はできない。また、前回'07年のスロー地震発生期には、最大震度5弱の群発地震が誘発されて起きたことが報告されている。房総半島沖で観測された今回のスロースリップ地震はあの〝未曾有の大震災〟の一環であり、警戒を解くことはできないのだ。そして、スロースリップに注意が必要なのは関東地方だけに限らない。

「スロースリップは駿河湾トラフや南海トラフなど、東海、東南海、南海の大型地震が危惧されている地域でも観測されている。危ないのは房総半島沖だけではないのです」(前出・川崎氏)

 4つの巨大プレートがひしめき合い、〝地震の巣〟と表現される日本列島に安寧の地はない。3・11から8ヵ月が経ち、復興に目が向きがちな今、もう一度足下の安全に気を配る必要がありそうだ。

「フライデー」2011年11月25日号より

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