「破産会社」はほんとうに「優良会社」になったのか。首長としての実績を問う---橋下「大阪府改革」を検証する

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[取材・文:松本創]

 11月27日の投開票に向け、白熱する大阪市長・府知事のダブル選挙。知事職を辞して、市長の座を目指す橋下徹が掲げる「大阪都構想」や教育基本条例案、さらには彼の独裁的手法の是非が争点となっている。しかし、その前に問うべきは首長としての手腕ではないだろうか。橋下は知事としてどんな実績を上げたのか。公開されているデータや記事から検証する。(文中敬称略)

 2008年1月の府知事選に出馬した橋下徹が声高に訴えた公約の一つが財政改革だった。いわく、大阪府は「破産会社」である。新たな府債発行(借金)はしない。収入の範囲で予算を組み、借金を減らしていく---。選挙のキャッチフレーズ「子供が笑う」は、教育や子育て施策に力を入れるというだけではなく、次の世代へ負担を先送りしないという意味に受け取った府民も多いはずだ。

 知事として初登庁した08年2月6日、橋下は就任挨拶で職員に対して「4つのお願い」を述べたが、最初に挙げた項目はやはり府の財政危機についてだった。

「今の大阪は破産状態にあることを皆様方に認識して頂きたく思います。 大変厳しい言い方になるかもしれませんが、皆さん方は破産会社の従業員である。その点だけは、厳に認識をしてください。 民間会社であれば---僕も弁護士として破産管財の業務、破産の申告の業務をやりましたが、破産・倒産という状態になれば---職員の半数や3分の2のカットなど当たり前です。給料が半分に減るなどということも当たり前です。(中略) この今の財政が危機状態にある大阪を立て直すには、やはり今までと同じような行政のやり方を継続していては何も変わらないと僕は思っています」

 この言葉に象徴されるように、橋下は民間から役所に乗り込んだ「コストカッター」としての役割を自任し、あらゆる場面でアピールしてきた。その感覚は、自治体財政の立て直しというより、企業再生のイメージに近い。

 自治体だからこそ抱えざるを得ない"不採算"部門、とりわけ文化や教育・福祉関連の事業や施設については多くを「不要」「無駄」「非効率」と断じ、次々と中止や見直し、補助金打ち切りを決めた。自ら急先鋒となった公務員バッシングを追い風に、人件費も大幅にカット。反対する団体や文化人、あるいは府職員とのやり取りが繰り返し報じられたこともあり、橋下には「改革の断行者」というイメージができ上がった。

 手法や事業選別に疑問は残るにしても、府財政がほんとうに持ち直したのなら、それも間違いではないだろう。実際、橋下府政の3年9ヵ月で府財政は劇的に好転したと信じる人も多い。

 しかし今、府の財政指標を眺めてみても、「再建した」と言えるような改善は見えてこない。それどころか、借金は増え続ける一方だ。なぜ、これほどイメージと実態がかけ離れているのか。「橋下改革」とはいったい何だったのか。ほんとうのところを検証するべきだろう。

「3年連続黒字決算」の実態

 知事就任からちょうど1年後の2009年2月。橋下は09年度一般会計の当初予算案が11年ぶりに黒字に転じる見通しになったと記者会見で明らかにした。

 予算査定段階では最大450億円の財源不足が生じる恐れがあったが、前年度予算で人件費削減や建設費などの歳出抑制に踏み切ったために剰余金が生じ、財源に充てられることになったと説明。「財政再建へ舵を切ることができた」と胸を張った。その後の一般会計実質収支を見ても、08年度に103億円、09年度に310億円、10年度で257億円と、確かに就任以来3年連続で黒字を維持している。

 だが、問題はその中身だ。

 大阪府の実質収支は、故・横山ノック知事時代の2000年度に約400億円の赤字となったのを底に、徐々に改善されつつあった。橋下が就任する前年の太田房江知事時代には赤字額は12億円まで圧縮され、黒字に転じるのは時間の問題だった。「橋下知事でなくても赤字脱却はできた」と指摘される由縁である。

 しかし、その赤字解消は、タコが自分の足を食うような苦肉の策がもたらしたものだった。府は橋下の就任以前から、本来は地方債の返済に充てるべき「減債基金」から一般会計への借入を行っており、その額は多い年で1145億円(02年度)に上った。

 それでも、借入分を後で返済できるなら、手法自体に問題はない。だが、大阪府は返済の見込みがないまま借入を続け、自転車操業状態に陥っていた。やがて減債基金が底をつきそうになり、08年の選挙前には、地方債の償還を一部先送りして、浮いた金を一般会計に繰り入れるという赤字隠しが発覚。橋下はこれを強く批判し、今後は減債基金の取り崩しを一切認めないばかりか、一時は「新規の府債発行はしない」という方針まで打ち出した。「歳入の範囲内で予算を組む」というわけだ。

 ところが、「11年ぶりの黒字」を正式に発表した後の2009年10月、減債基金とは別の基金からの借入が明らかになった。横山・太田知事時代に6基金から計1533億円の借入があり、うち1479億円が未返済になっていた。

 さらに、翌10年2月の外部監査では不適切な会計操作が指摘される。

「府では実態として長期の貸付であるものを、年度末日に一旦全額の返済を受け、翌年度初日に再度貸付を行うという単年度貸付を5法人に対して平成20年度(08年度)中に1193億円行っている。(中略)府の予算編成上、歳入欠陥とならないように、2日間だけ資金を引き揚げているだけであり、実質的には府からの長期貸し付けである」(平成21年度包括外部監査結果報告書)

 この操作がなければ、08年度の一般会計決算額は約853億円の赤字になっていたと報告書は断じた。つまり、大阪府の黒字転換は、違法とは言えないまでも、さまざまな辻褄合わせで成り立ってきた、いわば"見せかけ"の数字だという指摘である。

 こうした会計の実態が明らかになると、本来はトップとして財政の責任を持つはずの橋下は、「粉飾」「デタラメ」と人ごとのようにののしり始めた。「黒字宣言」を自らの手柄として語ったときとは、180度の転換だ。しかし、黒字宣言自体は事実上撤回せざるを得なくなった。

 そもそも、それ以前の問題として、「自治体財政において、単年度黒字などたいした意味はない」という指摘もある。都道府県の歳出は特に人件費の占める割合が高く、大阪府の場合は約3割、9000億円に上っていた。この部分を大幅に削れば一時的に数字は良くなる。

 しかし、仮に黒字になったとしても、それで府財政が健全だという話にはならない。ここには府債残高とその返済能力、資産などはまったく考慮されていないのだ。それを知ってか知らずか、「11年ぶりの黒字」「改革の成果」と橋下の手腕を讃えるような報道が「改革者」のイメージを作ってきたといえる。

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