証券市場の片隅に、「増資マフィア」「資本のハイエナ」と呼ばれる連中がいる。
業績不振企業に取りついて、資金調達をエサに経営に関与、株価操縦、インサイダー取引などに利用。悪評が高まって処分を受けそうになると退散、次の標的に移る。

メンバーは、元銀行員、元証券マンといった金融ブローカーに、怪しい資金を運用する投資ファンド、高利の金融屋など。犯罪スレスレどころか「法の網」をかいくぐる確信犯である。
最初のころは、摘発のリスクに見合う収益をあげ、仕手株化させることで数十億円の利益を手にすることもあったが、最近は捜査当局が手口と人脈を解明、摘発が相次いでいる。ことにこの半年は逮捕ラッシュで、マフィアは壊滅状態である。
その黄昏を示すのが、警視庁と証券監視委によって捜査が進められている情報通信会社「トランスデジタル」事件である。
2月16日に逮捕されたのは、社長の後藤幸英容疑者、元副社長の鈴木康平容疑者、金融ブローカーの黒木正博容疑者、酒類販売会社社長の野呂周介容疑者など。トランスデジタルは、08年9月、民事再生法の適用を申請して倒産するが、その直前、会社資産の一部を野呂容疑者の会社に移していた。
注目されるのは、黒木容疑者が増資マフィアの大物であることだ。かつては「ベンチャービジネスの雄」として脚光を浴び、音楽配信企業のリキッドオーディオ・ジャパンを東証マザーズの第一号で上場させた。しかし、上場直後の00年2月4日、株価が1221万円に達したのがピークで、そのすぐ後から不祥事が相次ぐ。
同年10月、社長が監禁容疑で逮捕されると株価も評判も地に落ちた。オーナーの黒木容疑者も会社を手放した。
以降、黒木容疑者は金融ブローカーとなるが、増資マフィアという"仕事"は、彼にうってつけだった。慶応大学出身のベンチャー経営者だっただけに人脈は幅広く、ブランドのスーツが似合う二枚目で弁が立った。
「ボロ株」に投資、危うい操作で株価を上げて収益を確保するため、資金元は危ない先が多い。暴力団のカネや脱税資金が混じることもある。それだけに、危うい勢力と増資を受ける上場企業経営陣とのパイプ役として、黒木容疑者はうってつけだった。
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