「情報とエンタテイメントの宝庫」国会審議を元経産省キャリア官僚が案内!超画期的な国会ガイド連載開始!
これを読めば国会審議が100倍楽しくなる
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 国会中継を見たことがあるだろうか?

 「たまにテレビ中継をやっているのは知っているが、あまり見たことはない」「夜のニュースや、翌日の新聞で報じられているのを見る程度」といった人が大半でないかと思う。

 これは、実はとてももったいない。

 なぜかというと、国会審議は、政治や政策について知るための"情報の宝庫"。しかも、エンターテインメントとして、かなり面白いからだ。

 国会審議を見ることの効能をあげてみると、

 1)ときの重要政策課題についての政府の立場、それへの反対論がよく分かる。時間の短いテレビ討論などと比べ、よほど突っ込んだ議論がなされる。ときには、政府が批判に抗しきれず政策を転換する瞬間など、重大な場面に立ち会うこともある。

 2)本格的なディベート番組として楽しむこともできる。政治家はバックに支援組織などを背負い、場合によっては政治生命を賭けた真剣勝負なので、激しい攻防になることも少なくない。

 3)登場する政治家たちの資質が見える。不勉強で立ち往生する閣僚や、底の浅い質問に終始する野党議員もいれば、「こんな素晴らしい政治家がいたか」という嬉しい発見もある。街頭演説やブログなどの一方的情報発信を見るのと段違いで、政策に関する見識、問題意識、ディベート能力などの程度がはっきりと分かる。

 4)さらに、これは上級編になるが、例えば党内や政府内での議論が割れているときなど、構図やそれぞれの思惑を読み解くカギが、国会審議に隠されていることもある。

 そうした国会審議のうち、ニュース番組や新聞などを通じて一般の目に触れるのは、残念ながら、ごく一部の断片だけだ。本当は、政治や政策に関心のある人にとって極めて面白いコンテンツがまだまだあるのに、人目に触れず死蔵されているのだ。

 だからと言って、皆さんに「国会のホームページで全部見てください」とおすすめしようとは思わない。(国会審議は、基本的にすべて、衆参両院のホームページにおいて動画アーカイブで公開されている。)

 例えば先週(11月7日の週)なら、NHK中継された重要審議だけでも、
・衆議院予算委員会での基本的質疑(7~9日に計14時間)、
・衆参両予算委員会でのTPP集中審議(11日に計7時間)、
がある。これをすべて通して見るのは、この世界のプロにとっても至難の業だ。

 ではどうしたらいいか?

 ・・・と考えていて、「問題は、スポーツ専門ニュース番組やスポーツ新聞に相当するものが無いことだ」と思い当たった。

 例えば、サッカーや野球の熱狂的愛好者でも、Jリーグやプロ野球の全試合を、最初から最後まで見ようとは思わない。だが一方で、NHK7時のニュースのスポーツコーナーや、一般の新聞のスポーツ面での簡単な紹介だけでは、ちょっと物足りないという人がいる。

 そういう人のために存在するのが、スポーツ専門ニュース番組やスポーツ新聞だ。各試合の得点シーンや、好プレー・珍プレーなど、大事なポイントはきっちり見せてくれる。さらに、試合後の選手・監督のコメント、評論家の解説なども交え、各シーンをどう見たらいいのか、分かりやすく教えてくれる。

 ところが、国会の場合、"全試合中継"(しかも解説なし)と"スポーツコーナー、スポーツ面"はあるが、"スポーツ専門ニュース番組、スポーツ新聞"に相当するものが存在しない。このため、多くの"政治・政策ファン"の皆さんが、本当は面白いコンテンツを見過ごしているわけだ。

 だったら、国会版の"スポーツ専門ニュース番組、スポーツ新聞"を作ってしまおう、というのがこの連載企画だ。

 国会審議の"得点シーン"や"好プレー・珍プレー"などを、解説を交えながら紹介していく。さらに、動画サイト『東京プレスクラブ』とも連携し、"各シーンの動画"なども極力見やすくしていこうと思っている。

予算委員会での"得点シーン"

 今回は初回でもあるので、まず、国会審議での代表的な"得点"パターンをご紹介しておこう。

 ここで"得点"とは、質問者="オフェンス"側(通常は野党の議員)が、答弁者="ディフェンス"側(通常は政府側の閣僚ら)に切り込んで何らかの戦果を得ること、と思っていただければよい。

 題材は、今回は、11月7~9日の衆議院予算委員会「基本的質疑」を取り上げる。「基本的質疑」とは、総理以下の全閣僚がそろって出席し、NHK中継もなされる、いわば国会審議の花形だ。

<11月7日衆議院予算委員会ダイジェスト(動画)>

<11月8日衆議院予算委員会ダイジェスト(動画)>

<11月9日衆議院予算委員会ダイジェスト(動画)>

 (なお、今週15日から、参議院予算委員会での基本的質疑が始まり、衆議院以上にエキサイティングな議論が繰り広げられているが、動画準備に若干の時間を要するため、今回はまず衆議院予算委員会をサンプルとして用いる。)

1)パターン1:「政府に善処を約束させる」

 政府の対応などに不備があるときに、問題指摘して善処を約束させる。最もオーソドックスな得点パターンだ。

 先週の予算委員会では、例えばこんなケースがあった。

 吉野正芳議員(自民党)の質疑で、原発賠償の不備を追及。特に、避難住民の精神的苦痛について、もともと政府の中間指針では「金額はあくまでも目安で、柔軟な対応を妨げるものではない」と書いてあったのに、東電の運用では5万円/10万円などの目安が上限扱いされ、しかも9月以降は賠償額を半減としていることを問題にした。

 これに対する答弁と、その後のやりとりだ。

 〈 枝野経産大臣: 指針そのものの中にも、あくまで一つの目安であって、敢えて非常に分かりやすく申し上げれば、・・・そこまでは事実上無条件で補償がされる。しかし、それぞれさまざまな事情に基づいて東京電力はそれを上回ってそれぞれの被害の実情に応じた賠償をする責任がある。・・・ここまでの運用が、どちらかというと、指針に書いてあるからここまでしか払わないという上限の基準のような使われ方をしている、少なくとも被害者の皆さんに受け止められている側面がありますので、これは逆だと。

 最低でもここまではもらえるというふうな基準であって、それぞれの実態に応じて、特に慰謝料のような性格のものについて東京電力はしっかりと支払うべきであるし、このことについて経産大臣としてしっかりと指導してまいります。

 (中略)

 枝野経産大臣: ・・・(東京電力には、)精神的被害を含めて、指針を超える賠償が適切である方に対してはしっかりと賠償していただきたいと思います。

 吉野議員: 西沢社長、今の大臣の答弁聞きましたね。6ヵ月過ぎて2分の1になる。ここは政府として、それ以上のもの払ってもいいよっていう答弁なんです。血も涙もある東電だっていうことを、全国の皆さま方の前でここで約束してください。

 西沢社長: ・・・前向きに考えさして、検討さし、実行さしていただきたいと思います。 〉

 <関係部分(動画)>

 (注:ホームページ上で公開されている動画を基に書き起こしたものであり、今後公開される正式な議事録とは多少異なる可能性がある。以下も同じ。)

 吉野議員としては、大臣から被害者救済サイドに立った答弁を引き出し、当事者の東電にも国会の場で善処を約束させた格好だ。これは、大戦果といってよいだろう。

2)パターン2:「隠れた問題を暴露する」

 こちらは、パターン1とちょっと違い、世間でこれまであまり知られていない問題を新たに指摘するという"大技"だ。はまれば、世間を揺るがす大争点に発展することもある。例えば、かつて野党時代の長妻昭議員が国会で取り上げた「消えた年金」が好例だ。

 先週の予算委員会では、「消えた年金」と比べれば小粒だが、こんなやりとりがあった。

 〈 茂木敏充議員(自民党): ・・・三次補正に計上した原子力安全庁の発足準備経費の中に、ホームページの作成費入っております。いくらですか?

 細野環境大臣: すいません、原子力安全庁の方はですね、どういう組織にするのか、そこにどういう機能を入れるのかということについては、私もほぼ週に少なくとも1回もしくは2回、かなり集中的に議論をして進めておりますので、状況は把握しているつもりなんですけど、すいません、あのホームページについてどういう予算になっているかというのは承知をしておりませんが・・・(資料を受け取って、)はい、あの、茂木会長の方からいただきましたけど、1.4億円という予算が計上されているということでございます。これ、たぶんそうなんだろうと思います。すいません、承知をしておりませんでした。

 (中略)

 茂木議員: ・・・この1.4億円、明らかにですね、代理店の言いなりの水増しの予算だと、こんなふうに思っております。あの、細野大臣、官僚に任せないで、ご自身で、一度きちんとチェックをしていただきたいと思います。 〉

 <関係部分(動画)>

 「ホームページ作成費で1.4億円」という予算計上は、言うまでもなく、常識とかけ離れている。茂木議員は、この質問で、"不意打ち"で担当大臣をあわてさせ、政府提出予算のいい加減さを示すことに成功している。

3)パターン3:「答弁を混乱に陥れる」

 "不意打ち"で大臣を立ち往生させるというのは、この一つ。上記の茂木議員の場合は、立ち往生は目的としていなかったようだが、状況によっては、「ちゃんと答弁できないなら、審議できない!」といって審議ストップしてしまうことがある。答えられない質問を浴びせて大臣を追い詰め、「審議を止める」というのは、いわば"ホームラン"級の得点だ。

 また、複数の大臣らに違う答弁をさせ、いわゆる「閣内不一致」状態に追い込むというのもある。先週の予算委員会では、類似ケースがあった。

 論点は、「人事院勧告の内包」とか小難しい言葉が使われているが、要するに、公務員給与を7.8%カットする「特例法案」を出せば、これとは別に、給与0.23%引下げを求める「人事院勧告」を実施しなくてもいいのか、という問題だ。

 〈 石井啓一議員(公明党): ・・・この給与削減特例法案に関しまして、人事院勧告の扱いがこれは問題になっております。・・・人事院勧告の趣旨を内包しているということで、人事院勧告の実施を見送る決定を政府としてされております。この人事院勧告の趣旨を内包しているというのはどういうことなのか、このことを総務大臣に確認したいと思います。あわせてですね、今回のこの人勧の勧告を見送るという決定をしたことについて、人事院の見解はどうなのか。続いて人事院総裁にお伺いしたいと思います。

 川端総務大臣: ・・・人勧と特例法案は、目的や狙いは当然異にするものでありますが、両者ともに給与カーブをフラット化させる、あるいは給与水準を大幅に下げるという効果は有しておりまして、その意味において総体的に見れば、効果において、特例法案は人勧の趣旨を内包していると評価できると考えております。・・・

 江利川人事院総裁: ・・・今、人事院勧告の趣旨が内包されているという説明がありましたが、私は今の説明については若干の疑問点を持っております。一つはその、0.23と7.8を比較して、数字が大きい方が内包しているという話でありますが、マラソンをすれば100メートル競走はしなくていいのかと。100メートル競走をしなければ、カールルイスもボルト選手も出てこないわけでありましてね。・・・(人事院勧告は)憲法あるいは法体系に基づいた制度でありますので、これを実施しないと言いますと、法体系上問題が出てくるのではないかという認識を持っております。

 石井議員: 政府の内部でですね、これだけ意見の差があるということ自体が、やっぱ問題ですよね。これは大きな問題をはらんでいると。・・・ 〉

<関係部分(動画)>

 人事院総裁は閣僚ではないから、「閣内不一致」とはちょっと違うが、「政府内部での大きな意見の差」を引き出して問題としたわけだ。

4)パターン4:「レッテルを貼る」

 政府の対応に、わかりやすく否定的なレッテルを貼るパターン。先週の予算委員会での一例をあげれば、こんな場面があった。

 〈 棚橋泰文議員(自民党): ・・・社会保障を安定させるために今回消費税を引き上げるというお話ですが、では、まさに社会保障と税の一体改革になる、例えば民主党のマニフェストにあった、最低年金7万円は税でやると、これは、この同じ来年の3月に法案が出て、同じようにできるんですね。・・・

 (中略・・・結論として、年金制度の検討はまだ時間がかかるとの答弁を引き出したあと、)

 棚橋議員: ・・・要は、国民からすると、消費税は10%に上げると。これは来年の3月に法案が出るということは、もう半年ないわけですね。だけど、今の古川大臣でも小宮山大臣でも、年金制度の問題に関してはいろいろと検討しなきゃいけない問題があるから時間がかかると。間に合えば通常国会に出すと。これは、たとえが悪いかもしれませんが、料金だけはいただくが、料理をどういうものを出すかは後で決めますから、先に料金払いなさい、というふうに国民が思ってもしょうがないじゃないですか。・・・ 〉

 <関係部分(動画)>

 この「料金は先、料理は後」というフレーズ、棚橋議員は質問で繰り返し言及した。今後どこまで世間に広まるかは分からないが、なかなか分かりやすいたとえではある。

 ちなみに、上で「中略」とした部分には、実は長いやりとりが挟まっている。

 最初の質問に対し、

 〈 古川内閣府特命担当大臣: お答えいたします。民主党がマニフェストでお約束いたしました年金の一元化の改革案につきましては、この6月にまとめる成案の議論の中でも、これは党内で相当議論いたしまして、かなり具体的な形でこれはブレークダウンした形になっております。今後ともこれ、党の方でも政府の方でも検討してまいりたいと思っておりますが・・・(あまりに長いので以下省略するが、トータルで1分50秒ほど)

 棚橋議員: 大変長い答弁でしたが、よく分かりません。・・・これは同じタイミングで実施するんですね。野田総理、お答え下さい。

 小宮山議員: マニフェストでお約束をしている年金の一元化については、これは25年度中に法案を提出するということで、そのように党の中で議論が進んでいるものと思います。で、今回の消費税引き上げの5%分は、そのうちの1%相当、2.7兆円程度は成案で示された制度改革に伴う必要な費用。この中には・・・(これも長いので以下省略するが、トータルで1分15秒ほど)  〉

 もとの質問は、「年金改革の法案は、消費税と一緒に、来年3月に出すのか?」というシンプルな問い。イエスかノーかで答えれば1秒で終わる話だが、なぜか、延々とよく分からない答弁が続く。

 こういうのを聞くと、国会審議が嫌になってしまう人もいるかもしれないが、これは、サッカーでよくある、"時間稼ぎ狙いでボールを回している状態"と思ったらいい。

 この質問の場合、政府としては、すぐ「ノー」と答えると、相手の思惑どおりになってしまうので避けたい。しかも、衆議院予算委員会の場合、さらに"時間稼ぎ"が重要な理由がある。各質問者の「持ち時間」が、質問と答えのトータルで決められる、いわゆる「往復方式」なのだ(これ以外に、質問時間だけで設定する「片道方式」もあって、参議院予算委員会はこちら)。「往復方式」の場合、政府側としては、延々と答弁して「持ち時間」を消化すれば、その分追及を受ける時間が減る。だから、長口舌をふるう傾向が強まるわけだ。

5)パターン5:「閣僚の資質不足などを露呈させる」

 閣僚の不勉強ぶりなどを露わにする、というのも"得点"パターンの一つ。財務大臣当時の菅直人氏が、「乗数効果とは何か」を答えられなかった場面は、その後のニュースやワイドショーなどで何度となく取り上げられた。

 先週の予算委員会では、こんな場面があった。

 〈 江田憲司議員(みんなの党): ・・・CDSってご存じですか。安住さん、答えてください。

 安住財務大臣: えー、クレジットの話ですけどね。これね、先生、だけどあれじゃないですか・・(急に別の話を始め、延々と答弁)。

 中井委員長: 安住さん、CDSって何です? 答えた? あれでいいの? いいんですか? 総理答えますか?

 江田議員: いいです、いいです。・・(中略)・・そして、CDS。さっき出ましたね。これは、クレディット・デフォルト・スワップというやつで、これはまあ簡単に言えば、国債がデフォルト、債務不履行になったときの損失をカバーする保険料だと思ってください。・・・ 〉

<関係部分(動画)>

 江田議員は、「財務省は財政破たんを強調しているが一面的」という文脈の一環でちょっと聞いてみただけのようで、それ以上に追及はしていなかったが、安住大臣が「CDS」を知らなかったのは明らか。さすがに財務大臣としてちょっとまずいだろう。

 さらに、政策面での資質だけでなく、スキャンダル系の話もよく出てくる。

 先週の予算委員会では、平沢勝栄議員(自民党)が、山岡国家公安委員長のマルチ商法との関連などを質問。続いて「大臣は、今年、(義父である)山岡荘八さんのお墓参り行かれましたか」などという質問まで飛び出し、山岡大臣の個人ヒストリーが延々と議論された。

 私は個人的には、こんな議論を、全大臣列席の「基本的質疑」で行っていることには違和感を持つ。だが、閣僚の資質を問うことが国会の役回りであることもたしか。少なくとも、これが今の国会運営だ。

6)パターン6:「自らの能力を誇示する」

 最後に、これは"得点"にあたるのかどうかやや不明だが、自らの能力誇示というのもある。

 特に自民党の場合、「自民党には政権担当能力があるが、民主党にはない」ということを示そうと、政策に関する見識を滔々とひけらかすケースも少なくない。

 先週の予算委員会では、野田毅議員(自民党)が安住財務大臣に対し、あたかも先生が生徒に対するかのような姿勢で"口頭試問"を繰り広げ、果てには、

 〈 安住大臣: ・・・先生の先見の明に大変尊敬を、私改めてさせていただきました。

 野田議員: いや、別段尊敬していただかなくたってよいです・・・ 〉

 <関係部分(動画)>

 などとやりとりしていたのは、ややこれに近い印象だった。これは、野田議員がそう意図したというより、自ずとそうなってしまったのかもしれないが。

 次号以降では、最新の国会審議のダイジェストをお伝えしていきたい。

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