「これで一生安心」高い有料老人ホームの入居金を払ってホッとしたのも束の間、さまざまな事情で退去を余儀なくされるケースは多い。そして払ったカネは返らない・・・。
10分の1も返金されない
「私が返還金の問題に気がついたのは、両親がそのホームを退去してしばらくしてからのことでした―」
千葉県在住の辻井亮二さん(仮名・60代)は声に憤りを滲ませ、話を始めた。
'04年、辻井さんの父親は84歳、母親は81歳だった。父が軽い脳梗塞になったことがきっかけだった。母は元気だったが足を悪くしており、自分を含め子どもたちはみな仕事をしていた。「いい機会」だと考えた。
両親の家の近くに介護付き有料老人ホームを探した。パンフレットを取り寄せ、いくつかの候補から、あるホームに決めた。当初は両親も「これで死ぬまで安心できる」と喜んでいた。
「入居してわずか3ヵ月が経過したころでした。母の状態がおかしくなったんです。ほとんどベッドに寝たきりになり、脚の筋肉がみるみる落ちていった。自立歩行もできなくて、車椅子を使うようになってしまった」(辻井さん・以下同)
一方、父のほうは脳梗塞のリハビリが施設内ではできないことに苛立っていた。提携病院へ行くだけで余計な費用がかかった。
「そのうちに母が食事を食べなくなり、病院に行って点滴で栄養剤を入れてもらうようになったんです。あまりに急な展開に、父が『このままでは自分たちは殺されてしまう』と顔をゆがめて口にしたのを覚えています。おカネを払って、なんで死ぬような思いをしなければならないのか・・・と」
その有料老人ホーム「A」は埼玉県にある。両親の契約の手続きは辻井さんの兄たちが立ち会っていたが、入居の際、「終身利用権金」、「入居一時金」という二つの名目の入居金を支払った。父が合計約255万円(うち189万円が終身利用権金)、母が合計約284万円(うち210万円が終身利用権金)で、二人で約540万円である。
入居後は、月々それぞれ20万円ほどの施設利用料などがかかり、年間約500万円弱の費用を支払った。入居金や月々の支払いは両親の貯金や年金、恩給でまかなった。
そして、入居から2年足らずで退去にいたる。
「父や私たちは何度もホームに苦情を言っていたのですが、何一つ改善はされませんでした。だから、父の言った『殺されてしまう』という言葉を聞いて、別の施設を必死で探したんです」
入居時に「A」と交わした契約に照らし合わせた結果、退去後に両親に返還されたのは、父が17万6400円、母が28万5826円だった。二人で約540万円支払った入居金は、わずか46万円余りしか戻ってこなかったのだ。
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