企業、市民の危害防止に暴対法改正へ
東京、沖縄の施行で全都道府県に暴排条例[暴力団]

「暴力団対策はこれからが正念場。手を緩めることなく、全力で取り組む」。片桐裕・警察庁長官は、長官就任当日の10月17日の記者会見で表明した。安藤隆春前長官の号令で09年に始まった集中的な暴力団対策を継続するとの宣言だ。

 警察庁は現在、暴力団対策法(暴対法)改正案の作成作業に取り組んでいる。法律の専門家らで構成する有識者会議で意見を聴いたうえで改正案を固め、来年の通常国会に提出する方針だ。暴対法の改正は、92年3月の施行以来、5回目となる。

 改正の柱は、資金の獲得を目的に、凶器を用いた危険な攻撃を企業に対して行う暴力団への規制だ。こうした暴力団を、「特に危険な暴力団」として指定する制度の導入が検討されている。この指定を受けた暴力団の構成員が、被害企業に近寄ることを禁止し、違反した場合は処罰の対象にする---などの規定を盛り込むことで、企業関係者の安全を脅かす行為の抑止を図ろうとしている。

 暴力団同士の対立抗争に市民が巻き添えになることを防ぐため、抗争相手の居宅や療養先の病院の周辺を徘徊することを暴力団員に禁止する条項も検討している。住民による暴力団事務所の使用差し止め請求訴訟を、暴力団追放の推進団体(暴力追放センターなど)が代行する制度も導入する方針だ。暴力団側からのいやがらせを恐れて訴訟を断念する事態を避け、訴訟を起こしやすい条件を整えるためだ。

 このように今回の暴対法改正は、暴力団の行動が企業や市民に危害を及ぼすのを防ぐことに重点が置かれている。背景にあるのは、九州北部で起きている深刻な事態だ。

 警察庁によると、暴力団によるとみられる企業への加害行為は今年上半期(1~6月)に20件発生し、前年同期を11件上回った。拳銃や火炎瓶など凶器が使われた事件は12件で、そのうち10件が福岡県、2件が佐賀県で発生している。ガス、電力などの会社の役員宅に手投げ弾のようなものが投げ込まれるという事件もあり、福岡県警の捜査が続いている。

 いずれも福岡県に本拠を置く暴力団、道仁会と九州誠道会の対立抗争も長引いている。

 06年5月~今年9月の間に起きた両組織のトラブルは39件に及び、死者は12人に上った。

 07年には佐賀県の病院で入院患者の男性が暴力団関係者に間違えられ、抗争相手の組員に射殺される事件も起きている。

 福岡県は今年4月と8月の2回、「市民生活への脅威」を取り除くため、暴対法の抜本的改正による暴力団取り締まりの強化を警察庁に要請した。警察庁も、暴力団から市民を守る対策は急務として要請への対応を検討。これが今回の暴対法改正の契機となった。

 もうひとつの背景は、暴力団排除条例だ。暴排条例施行の動きは09年7月の佐賀県を皮切りに全国に広がり、今年10月1日に東京都と沖縄県で施行されたことにより全都道府県で出そろった。

 各都道府県の暴排条例は、「暴力団を経済・社会活動から排除する機運を官民が一丸となって高めていく」という理念で共通している。多くの条例は、暴力団への利益供与を禁止し、違反した場合の措置として「勧告」や「公表」などの規定を設けている。「祭礼や花火大会などの行事に暴力団を関与させること」や「青少年を事務所に立ち入らせること」を禁止事項に掲げている県もある。

芸能界の浄化は進むか

 また暴力団の威力を利用する目的で利益供与を行うことを直接罰する規定を設けている県もある。タレント・島田紳助氏が暴力団との交際を理由に引退したことを機に、直後に施行された東京都の暴排条例が注目された。東京にはテレビのキー局があり、芸能界からの暴力団排除が求められているからだ。

 キー局は、タレントの出演契約書に暴排に関する条項を設けるなどの対応を検討しているという。「条例施行を機に、芸能界の浄化が進む」との見方がある一方、「長年のしがらみを断ち切るのは容易ではない」との指摘も根強い。

 暴排条例の施行で企業に求められることは、暴力団と取引上の関係があったり、新規の取引を要求されている場合、それを断るということだ。そこで、暴力団との関係を断とうとする企業を守るために、どのような規制を暴力団にかけるのかが暴対法改正の課題になっている。

 検討されているのは、中止命令の対象となる行為を追加することだ。

 暴対法は、一定の要件に該当する暴力団を「指定暴力団」とし、その構成員が「暴力的要求行為」を行った場合、公安委員会が中止命令や再発防止命令を出せると定めている。暴力的要求行為の内容は現在、21項目が明文化されている。新たな暴力的要求行為に「暴力団との関係遮断を図る企業への不当な取引要求」を加えることで、それを中止命令の対象とし、暴力団の動きにストップをかけるという考え方だ。暴力団との関係遮断をバックアップする効果が期待されている。

 10月18日、警視庁は、中堅ゼネコン「東急建設」から1億円を脅し取ろうとしたとして、会社役員の男を恐喝未遂と会社法違反(利益供与要求)容疑で逮捕した。暴排条例の施行を機に取引停止を通告されたことへのv腹いせだったという。

 警視庁によると、男の弟は道仁会系の元組員で、暴力団との関係を背景に東急建設九州支店が受注した工事の下請けに参入したが、福岡県の暴排条例施行後に取引停止を通告された。男は「退職金」を要求。同社株を購入し、「株主総会で暴力団との関係を公にする」などと質問状を出したとされる。

 暴力団との関係遮断を図る企業が報復を受けたケースとして、象徴的な事件だ。ある警察幹部は「暴力団を排除する機運を社会全体に浸透させるためにも、勇気ある企業や市民への報復行為を厳しく取り締まることが必要だ」と話している。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら