損害賠償と電力安定供給へ〝生命維持〟
事業計画策定へ原発再稼動、料金値上げが焦点[東京電力]

東京電力に関する経営・財務調査委員会に臨み、下河辺和彦委員長(右)から報告書を受け取る野田佳彦首相=首相官邸で10月3日

 福島第1原発事故の損害賠償をめぐり、公的資金による資金支援を受ける東京電力(西沢俊夫社長)が、「原子力損害賠償支援機構」と共同で、政府に提出する特別事業計画を策定している。その基になるのが、政府の第三者委員会「東電に関する経営・財務調査委員会」(委員長・下河辺和彦弁護士)がまとめた報告書だ。そこからは、被害の救済と電力の安定供給のために「生命維持装置」を付けられたようにみえる東電の厳しい将来像が浮かんでくる。

「支援スキームの目的は被害の救済をしっかりと行うということと電力供給をしっかりと行うことの二つであります。この二つの目的が必要なければですね、東京電力はマーケット、市場原理に基づいて処理をされるわけであります」。枝野幸男経済産業相は9月12日の就任会見で、こう述べた。

 支援スキームがなければ、東電は巨額の賠償負担で債務超過になり、経営破綻するのは確実だ。つまり、経産相は被害の救済と電力安定供給のために東電を存続させていると明言したに等しい。策定中の特別事業計画は、東電が政府の資金支援を受ける前提になるもので、この枝野経産相の認定を受けなければならない。

 特別事業計画は、実際の賠償費用がどこまで膨らむかや、除染費用などが見通せない一方、迅速な賠償に向けて政府の支援の取り付けを急ぐ必要があることから、2回に分けて策定する。

 11月上旬の「緊急特別事業計画」では、第三者委員会が示した案をベースに、今年度内に実現すべき経営合理化策とともに、当面の賠償費用を賄うため支援機構に対する6000億~7000億円規模の支援要請を盛り込む。

 電気料金など電力制度改革の方向性や除染、廃炉費用の検証、柏崎刈羽原発(新潟県)の稼働見込み、金融機関との交渉など、より踏み込んだ議論が必要な課題の検討結果は、来春の「総合特別事業計画」に反映させる。

 これらの事業計画の基になる第三者委員会の報告書は、東電が支払う損害賠償額が13年3月末までで4兆5402億円に上ると試算した。

 内訳は、農林漁業や観光業などへの風評被害など一過性の損害が2兆6184億円、避難や営業損害など事故収束までにかかる損害額が初年度1兆246億円、2年度目8972億円だ。もちろん、営業損害などが長期化したり、除染などの費用負担が上乗せされれば、賠償額はさらに膨らむ。

 一方で報告書は、賠償金支払いの原資を確保するため、10年間で2兆5455億円のコスト削減を求めた。削減幅が大きいのは人件費だ。東電単体で全社員の約9%に当たる約3600人(グループでは同14%の約7400人)を削減し、一般職の給与を10年間にわたり2割削減、企業年金の運用利回りを現行の2・0%から1・5%に引き下げるなどして、1兆454億円削減する。

 さらに、資産リストラに関しては、東電の当初計画6000億円を超えて、3年以内に7074億円の売却が必要とした。具体的には、不動産で2472億円、有価証券3301億円、子会社・関連会社1301億円の売却を求めている。

 これらの経営合理化策を盛り込んだ特別事業計画が、経産相の認定を得られれば、損害賠償の資金については、政府の支援を受けられることになり、理論上、賠償の負担によって東電が破綻することはなくなるはずだ。

 しかし、それで東電の存続が保証されるわけではない。政府が支援機構を通じて交付する資金の使途は賠償金の支払いに限られ、本業の赤字の穴埋めには使えないからだ。

 第三者委員会の報告書は、原発再稼働や値上げ状況に応じて9通りの収支試算をはじいた。その前提は、事故前の約2兆円の融資残高は10年間維持する一方、事故後の緊急融資約2兆円は契約通りに返済、さらに既存の社債を順次償還し、新規の起債は行わないというもの。現時点での東電の信用力からすれば、やむを得ない厳しい前提だ。当然、資金繰りは極めて苦しくなる。

 損害賠償金については、公的支援を受けるという前提で盛り込んでいない。それでも、定期検査中の柏崎刈羽原発の再稼働がなく、電気料金の値上げもないという東電にとって最も厳しい想定では、代替火力燃料コストなどが跳ね上がることなどから、18年度に1兆9800億円の債務超過になる可能性があるという。

 このため報告書は「再稼働がなければ、著しい料金値上げをしない限り、事業計画の策定は極めて困難」と、再稼働や電気料金値上げの必要性をにじませた。

 原発再稼動へのハードルは極めて高い。といって、料金値上げも簡単には認められない。報告書は電気料金制度のあり方についても注文を付けたからだ。

第三者委が原価計算に疑義 

 現行の「総括原価方式」は、コストに一定の利益を上乗せして料金を算出する。コストの中には、寄付金や業界団体への拠出金、出向者の人件費なども含まれていた。東電では10年間で約6000億円もの費用が過大に計上されていたと認定し、「原価主義の原則が維持されているか疑義がある」と指摘。原価の対象を電気の安定供給に真に必要な費用に限定するよう見直しの方向性を示した。

 料金制度は国内全電力会社共通の問題だ。政府は今回の報告を受け、有識者委員会を設けて、料金制度を見直すが、国民の理解を得られる適正な制度ができるまで、値上げは難しいだろう。

 原発再稼動、料金値上げもままならない中で、中長期的には原子炉廃炉に伴う重い負担も発生し、東電は綱渡りの経営を迫られる。

 そこで、政府が支援機構を通じて東電に出資し、債務超過を回避する事態も想定される。東電を公的管理下に置くことになるわけで、原発国有化問題とも絡んで、その是非が問題になる。

 電力事業をめぐっては、地域独占の是非や電力自由化を促進するための発送電分離など先送りされている課題も多い。電気は産業や生活の重要な基盤である。適正な価格で安定した電力が供給されるよう、東電問題にとどまらない幅広い議論が必要になる。

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