空自の次期主力戦闘機の選定が大詰め
総額1兆円の一大ビジネス、3陣営がPRに躍起[防衛]

F35A=ロッキード・マーチン提供

 政府が年末に決める航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)をめぐる商戦が山場を迎えている。しのぎを削るのは、米英など9カ国が共同開発中のF35(ロッキード・マーチン社)▽米国のFA18(米ボーイング社)▽英独など欧州4カ国が共同開発したユーロファイター(英BAEシステムズ社など)の3陣営。戦闘機は1機100億円を超えることも珍しくない高級品で、整備費などを加えれば総額約1兆円と言われる一大ビジネス。日本の防空態勢の強化のみならず、今後の日米同盟や防衛産業の将来にも影響を与える選定だ。

10月16日、航空自衛隊百里基地(茨城県小美玉市)で開催された航空観閲式。出席した野田佳彦首相や一川保夫防衛相らの上空を、ややレトロな感が漂う戦闘機が飛び去っていった。燃料タンク落下事故を受けて展示飛行を自粛したF15の代役となったF4。このF4に取って代わるのが、新しく選ばれる戦闘機だ。

 空自はF4(67機)、F15(202機)、F2(93機)の3種類の戦闘機を保有しているが、1973年に部隊配備が始まったF4が古くなり、新しい戦闘機への買い替えが必要になっている。防衛省は、来年度予算の概算要求で4機分として551億円を計上。最終的には2飛行隊分、約40機を買う方針だ。

 9月に各陣営からの応募が締め切られ、いずれも1000ページ以上の提案書を提出した。同省は、中江公人事務次官をトップとする「機種選定調整会議」を設置。今回は初めて点数制を導入し、機体の性能▽維持管理を含む経費▽国内企業の製造への参加▽納入後の支援態勢---の4条件から審査する。それぞれの分野を点数にして、その合計の最も高いものを選ぶ。同点の場合は、野田首相や一川防衛相による「政治決断」となりそうだ。過去の巨額な装備品購入では、さまざまなうわさが飛びかった歴史があるだけに慎重な判断が求められる。

 元々、防衛省は世界最高レベルのステルス性能を持つ第5世代機F22を大本命にしていた。ところが、先端技術の流出を懸念した米側は輸出のみならず生産も中止してしまったため、09年に導入を断念した。

急速に航空戦力を高める中露

FA18Eスーパー歩―ネット=ボーイング提供

 そんな日本の立ち遅れを横目に、中国やロシアなどの周辺諸国は、急速に航空戦力を強化している。中国は今年1月に敵のレーダーに探知されにくい最新鋭の第5世代ステルス戦闘機「殲20(J20)」、ロシアも昨年1月に第5世代戦闘機のテスト飛行をそれぞれ行った。とりわけ中国の動きは顕著で、今年4月から9月の中国機に対する空自の緊急発進(スクランブル)は前年同期比の3倍以上に達している。

「これ以上先延ばしできない喫緊の課題」(自衛隊幹部)となったFX選定で、本命視されるのは、もっともステルス性能に優れた唯一の第5世代機F35。複数の自衛隊幹部は「現場はF35しかないと考えている」と証言する。ゲーツ米国防長官(当時)も今年1月、日本政府にF35を推奨する考えを示し、お墨付きを与えた。

 しかし、3機種の中では最も価格が高そうだ。開発も遅れ気味で、同省が求める16年度の納入に間に合わない可能性も指摘されている。

 対抗機種と目されるのがFA18。米海軍の主力として安定した実績に加え、F35に比べて安く、国内企業によるライセンス生産も可能だとアピールする。ただし、基本設計が古いとの指摘する声が強い。

ユーロファイター・タイフーン=BAEシステムズ提供

 米国政府も日米同盟を前面に打ち出し、働きかけを強めている。政府関係者によると、10月に来日したキャンベル米国務次官補は、米国製の採用を日本側に強く求めたという。米国内が不況にあえぎ、来年に大統領選を控えたオバマ大統領は批判の矢面に立たされている。「戦闘機作りは、大量の雇用を生み出す。米国にとっては絶対に落とすことができない商談」(日米外交筋)なのだ。

 一方、ここにきて猛烈な売り込みを展開するのがユーロファイター陣営。英国やドイツなど6カ国で採用され、リビア空爆での実績を強調。徹底的に情報開示に応じる方針を打ち出し、国内防衛産業との連携もアピールする。ただし、日本政府内には、米軍との相互運用に支障が出るとの懸念が根強い。

 それでも英国のキャメロン首相は9月の日英首脳会談で、野田首相にユーロファイターの採用を求めるトップセールスを展開。外交関係者も「一番アピールがすごい。本気で取りにきた」と舌を巻く。

 国内の防衛産業も目を凝らしている。9月には三菱重工業で生産されたF2の最終号機が引き渡され、50年以上続いてきた戦闘機の国内生産の歴史はいったん途切れた。防衛予算が減少傾向にある中、航空機メーカーから技術提供を受け、国内で生産する「ライセンス国産」ができるかは中小の下請けも含め影響が大きい。日本の防衛産業の基盤維持も危ぶまれる。

 FXをめぐる議論は、原則すべての武器輸出を禁じる「武器輸出三原則」の見直し議論にもつながっている。高性能化が進む戦闘機は、コストの高騰に対応するため各国による国際共同生産・開発が主流。しかし、日本は三原則があるため、F35などの共同開発に加われることができなかったため、割高で購入せざるを得なくなりそうだ。

 商談が巨額である故に、国家も巻き込んだ思惑が入り交じるFX商戦。国の財政状況の厳しさも増している。防衛省幹部は「国民や相手国、企業にも納得してもらう透明性確保に細心の注意を払わねばならない」と語る。

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