中谷巌 第1回 「私が経済学者から二度も『裏切り者』扱いされた理由」
島地勝彦氏(左)と中谷巌教授(右)

撮影:立木義浩

 その日、大型台風が直撃した東京都心にはほとんど人影が見当たらなかった。その豪雨の最中、伝説のエスプレッソカフェ『Cafe de Shimaji』を一人のジェントルマンがわざわざ訪ねてきた。日本を代表するエコノミスト、中谷巌教授である。ハーバードでPh.Dを取得し、政府のブレーンを何度も務めた碩学は、なぜかこのカフェのオーナーと肝胆照らし合う仲なのである。

シマジ 中谷教授、今日はこんな台風の土砂降りのなか(※1)、わざわざカフェ・ド・シマジにお越しいただき有り難うございます。

中谷 こんな大雨だから別の日に変更しないのかと思って、シマジさんにメールしたら、「何よりも尊いものは友情である」って返事がきたんだから仕方がない。これは行かないとあとで何をいわれるかわからないと思って。

シマジ まあまあ、美味しい暖かいネスプレッソを一杯いかがですか。

立木 まったく、中谷教授、そうでしょう。シマジは業界でむかしから、人使いがあらいので有名なんです。気をつけてください。

シマジ だからタッチャンなんか馴れたもんですよ。この大雨でも諦めて電話もかかってこなかった。

立木 わたしはこの調子で40年間、シマジにのせられて仕事をしてるんです。教授、お気をつけ遊ばせ 。

中谷 立木さん、わたしももう遅い。シマジさんに騙されて、すでに10年以上経ちました。

シマジ いやいやご両人の輝ける才能なくして、わたしの編集者人生は存在しません。とくに中谷教授には大変助けられました。

 わたしは集英社の取締役を57歳で首になって、子会社である集英社インターナショナルの社長に飛ばされたんです(※2)。行ってみると、インターナショナルという名前こそ立派だが、その会社は一冊の単行本も作っていなかったんですよ。

※1 この日は各地に深刻な被害をもたらした台風15号が都心部を直撃。鉄道がストップしたり、道路が増水で浸水するなど、混乱をもたらした。
※2 社長になったのだから十分じゃないかと思うのは、われわれ凡夫の発想。