東京市場を阪神大震災を機に転落した“神戸港"の二の舞にさせるな
逃げる外国人をどう呼び戻すか

  1995年1月に起きた阪神淡路大震災は、日本代表する港のひとつだった神戸港に大きな被害をもたらした。

 コンテナを積み下ろしするクレーンが倒れ、埠頭も船が着岸できない状態になった。麻耶埠頭でコンテナの積み下ろしが再開されるまでに2カ月余りを要し、全面的に復旧するまでには丸2年の歳月が必要だった。

 震災当時、神戸港は猛烈な国際競争の只中にいた。韓国・釜山港などがコンテナ埠頭の整備などを急ピッチで進め、物流のハブとしての国際港湾機能を競っていた。そこに震災が襲ったのだった。

神戸港のコンテナ取扱量

 震災で神戸港が機能不全に陥ったことで、当然のことながら、神戸港の貨物取扱量は激減した。神戸港の入港船舶の総トン数は1994年の3億343万トンから1995年には1億7326万トンへと、43パーセントも減少。外国貿易のコンテナ貨物の取扱量も4218万トンから2113万トンへと半減した。海運会社が神戸港から釜山港などへ急遽シフトしたことが要因だ。

 問題はその後どうなったか、である。神戸港の修繕が進むにつれコンテナの取扱量は持ち直したが、1996年には3195万トン、1997年には3026万トンにとどまり、それ以降、3000万トンをはさんで増減する状態が続いている。

 震災前年の4200万トンが過去最高のまま、それ以降は更新されないでいる。入港船舶の総トン数も震災前年の3億トンが過去最高のままで、その後ジワジワと減少。リーマンショックの影響で輸出が減った2009年は1億8700万トンと震災直後と同じレベルにまで落ち込んだ。

 つまり、震災の何年も前から国際競争に直面していた神戸港は、震災をきっかけに港の国際的な位置づけが大きく変化してしまったと見ていいだろう。

 今回の東日本大震災とその後も続く東京電力福島第一原子力発電所の事故によって同じことが起きる可能性が高い。日本のほかの港湾がそうなると言っているわけではない。国際競争の只中にいて何年も前から国際的な地位低下が危惧されてきた国際金融センターとしての東京市場で同じことが起きるのではないか、ということだ。

 原発での水素爆発をきっかけに、外資系企業の東京からの避難が相次いだ。東京から大阪へ機能を移す会社もあったが、金融系の場合、一気に香港やシンガポールまで機能を移した例が目に付いた。

 もともとここ数年、東京市場の国際的な優位性が失われ、アジアの中核拠点としての機能を香港やシンガポールに移す会社が多かったが、今回の震災をきっかけに、それが一気に表面化したと言える。

だぶついた世界のカネを東京市場に集めよ

「これではもう拠点としての機能は永遠に戻って来ないのではないでしょうか」と、外資系金融機関の日本人役員は言う。東京電力が原発事故の収束に向けた工程表を公表、その中で、安定的な冷却停止までのメドを6~9カ月とした。「これで放射能を恐れる外国人社員は最低でも1年近く戻ってこないことがはっきりした」というのだ。

 ここ10年以上、懸念され続けてきた「東京市場のローカルマーケット化」が、震災を機に一気に加速する可能性が強まっている。

 では、どうやって、東京市場の沈没を阻止するか。残念ながら、今のところ民主党政権内からも金融庁からも「東京市場の復興策」という声は聞かれない。

 だいいち、東京市場が“被災"した、という認識すら持っていないのだ。政府も金融庁も震災で直接的な被害を蒙った被災地域や金融機関の救済に手一杯の状態で、東京市場をどうにかしなければいけない、という問題意識すらない。

 東京証券取引所の斉藤惇社長は、「ジワジワと売買高が落ち込んでくると、東京市場は完全にローカルマーケットになってしまう」と危機感を強める。すでに東京市場の売買の中心は外国人投資家が担っている。その外国人が東京を脱出してしまえば、一気に売買が細る。

 多少の放射能の危険性があるとしても、外国人金融マンに東京に留まらせるにはどうすべきか。日本が投資対象として外せない国だ、ということを示す必要がある。

 米国などの流動性供給によって、世界にはだぶついたマネーが動き回っている。実際、震災直後の株価急落の過程では、外国人が日本株を買い漁った。そうした世界の余剰資金をいかに日本に呼び込むかが、東京市場の再興、ひいては日本全体の復興のカギを握る。

 そのためには、外国人が日本の復活を信じるようなグランドデザインを世界に向かって示す必要がある。

 政府は震災後1カ月を経てようやく「復興構想会議」を立ち上げたが、メンバーの中に金融業のプロと呼べる人材はおらず、そうした視点でのグランドデザインが出てくるかどうか心もとない。また、とりあえずの答申を6月末としていることも、タイミングが効果を大きく左右するマーケットへのメッセージとしては、余りにも悠長だろう。

 ビジョンの呈示という世界の投資家の感性に訴える戦略は不可欠として、それで十分なわけではない。東京を拠点にする具体的なメリットを国として呈示しない限り、リスクを犯して拠点を香港やシンガポールから戻すことはないだろう。

 これまでさんざん議論されてきた税制上の優遇策や、規制の撤廃などを一気に実行に移す時だ。

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