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福島が殺される
東京の身代わりなのか
週刊現代 プロフィール

 現在福島で独自の調査を行っている、国際環境NGOグリーンピース放射線調査チームの一員・小田光康氏はこう問題を提起する。

「放射線の拡散においてもっとも重要な要素は、実は距離ではない。風向きと地形なんです。たとえば我々は南東からの風の通り道である、浪江町津島の森で線量を計測した。30km圏内のギリギリ外にあたる場所です。測定結果は毎時100マイクロシーベルト。その森に10時間いるだけで、一般人の年間被曝線量限度に達してしまう量でした。

 意外と怖いのは、道路脇の茂みです。路面の放射線が風や雨で流れてそこに溜まるんです。路面は2マイクロシーベルトなのに、道路脇は20というケースもありました」

同心円避難に意味はない

 IAEA(国際原子力機関)が発表し、日本政府がいまだに危険を認めようとしない「飯舘村の土壌汚染」はまさに、この「風向きと地形」が原因だと考えられる。気象庁のデータによれば、第一原発が激しく放射性物質を出していた3月15日の午後、上空には東南東の風が吹いていた。原発から北西方向に盆地を抜けた飯舘村に、放射性物質が蓄積するのは、むしろ当然のことだった。

 菅野典雄村長(64歳)は本誌の取材にこう答えた。

「飯舘村が放射能汚染という名の下に有名になってしまったことは、言葉にならないほどの気持ちです。国も大変だろうから、あえてモノは申しませんが、今はとにかく、原子力の危険をなるべく早く除去してほしい、それだけです。まだ住民に避難はさせておりません。危なくなれば避難しなさい、というだけが策ではないと思うのです」

 しかしその後、妊婦と乳幼児を避難させる方針に転換した。放射線量の積算値が高まってきたからだ。

 菅野村長のこの対応は責められない。飯舘は原発からも遠く、つい先日までは畜産業の盛んな平和な農村だった。

 30km圏内にほとんどの集落が入っていない飯舘村で、菅野村長に「いますぐ全員で村を捨てよう」という判断を下させるのは、あまりに酷なことだ。では誰が判断を下すのかといえば、国しかない。それが村民の健康を守ることになる。

「国と東電は、避難範囲をこれ以上広げたくない。ましてや『距離よりも風』という説も絶対に採用したくない。なぜなら、避難範囲を10km広げることで、補償金額は莫大に跳ね上がるからです」(東電関係者)

 命より金。そもそもそれが原発の建設理念だった。そして、国のエネルギー政策を追認してきたメディアや国民も、その責任と無縁ではない。福島の供給する電力で暮らしている東京都民はなおさらだろう。

 原発に殺されようとしている福島を、他人事のように眺めることは、誰にもできないはずだ。

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