米クラウド業界をふたたび探訪する(5)
クラウドTVプロダクションと日本の放送機器業界

クラウド・グラフィックで人気を集めるカイロン社のブース (2011年NAB Showで筆者撮影)

 ネービーブルーで統一されたカイロン(Chyron)社のブースには、連日、人だかりができていた。ありふれたパソコンとディスプレーを前に、同社の社員が次々と字幕を作っては消してゆく。一見、なんの変哲もないデモンストレーションだが、同社は放送業界でいち早くクラウド・サービスを開始したパイオニアだ。今週、ラスベガスで開催されたNAB Show *1、同社はフル・クラウド型グラフィック・サービス「Blue Sky」を展示して注目を集めた。

番組制作の高コスト構造に挑戦する

 米国では企業情報システムでクラウド・コンピューティングが普及するだけでなく、そのほかの分野にも広がり始めている。その一例が放送番組制作だ。

 映画やテレビの番組制作といえば、大型サーバーと操作パネルを組み合わせた専用システムの世界だ。まさに各社各様の専門システムを競う「ものづくり」的な風土を持つが、最近は少数ながらクラウド・プロダクションの波が打ち寄せている。冒頭に紹介したカイロン社のクラウド・グラフィック・システムは、その一例だ。

 同社は放送局向け字幕・グラフィック機器の大手として知られている。米国ではニュース番組やスポーツ番組で字幕やグラフィックを多用する。生放送が中心のこうした番組で、登場人物や情景を説明する字幕情報は欠かせない。同社は、専用に開発したグラフィック処理チップを柱に専用機器を製造し、プロダクションやスタジオに売り込んできた。

 同社のウィリアム・ヘンドラー(William Hendler)マネージャーは「経済環境が厳しい中、伝統的なコストの高い番組制作機器を放送局向けに提供し続けることは難しい」とクラウドへの参入理由を説明している。

 同社がクラウドに注目したのは2007年頃、自社のCRM(顧客管理ソフトウェア)をセールスフォース(Salesforce.com) *2に切り替えた時だった。従来のシステムに比べ、ハードウェアの負担がなく、しかも拡張性に優れたセールスフォースのクラウドに接し「放送局向け字幕グラフィック機器も将来クラウドになるだろう」と考えた。

*1 NAB Showは全米放送事業者年次総会のこと。今年は4月11日から14日までラスベガス・コンベンション・センターで開催された。NABは米国のテレビ局やラジオ局を会員とする業界団体。強力なロビー活動で知られている。
*2 Salesforce.comはクラウド型顧客管理サービスの大手。日本でも郵便局やローソンなどが利用している。

 こうして同社のクラウド・プロジェクトが動き出した。字幕・グラフィック制作機能を大型専用機器に作り込むのではなく、オンライン・サービスとして売る"脱ものづくり"へと同社は舵を切った。

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