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原子力ロビー「電気事業連合会」の力と実態
電力会社幹部は3年間で5600万円を自民党政治団体に献金、「味方作り」を推し進めてきた
「社内でピンピンしている」(東電社員)という東電の勝俣恒久会長は、現役時代「カミソリ」とあだ名された

 4月1日付のフランスのル・モンド紙に、こんな記事が掲載された。

〈福島原発事故発生以降、国民の警戒心を煽るのを恐れ、事故の状況に関して十分な報道をしていなかった日本の大メディア(全国新聞・テレビ局)は、ようやく菅(直人)首相率いる政府と東電の対応に批判的になり始めた〉

 ル・モンド紙は問いかける。なぜ、日本のメディアは国と東京電力の責任を徹底的に把握・分析・追及しないのか---。同紙は3月26日の特集記事で〈日本人は原子力災害を意識し始めているものの、未だ事故の重大性には気づいていないようだ〉と呼び掛け、特派員の発言をこう記している。

〈この一連の悲劇の背景に、「原子力業界のロビー活動」が見え隠れしている〉

 福島第一原発から放射能が拡散していることは事実である。しかし、空中、水中で高濃度の放射性物質が検出された後、東電が一旦は事の重大さを認め、その後、政府が「1回のエックス線撮影時に受ける放射線の○分の1」などと安全をしきりに強調するという展開が繰り返されている。

東電の清水正孝社長は「高血圧とめまい」が原因で入院。電事連会長の職も辞する方向で調整が始まった

 事態の矮小化の裏で蠢く「原子力ロビー」という言葉が指すもの。その中に、原発を管理・運営する東京電力をはじめとした電力各社、原子力政策を担う経済産業省と原子力安全・保安院が含まれるのは言うまでもない。

 だが、政策に影響を及ぼすことを目的とした私的な政治活動を指す「ロビー」という言葉をわざわざ使用した点に着目してほしい。それは、とある団体の政治的な活動が、原子力政策推進に一役買っているからである。

「これまでメディアを通じて原子力発電は安全だとPRするCMや広告を目にしたことがあると思います。電力会社の名前でなく、電気事業連合会(以下、電事連)というクレジットを目にした人も多いでしょう。

 この電事連こそ、露骨に原発推進を訴えにくい電力会社に成り代わって、豊富な資金量と政界へのパイプを駆使し、〝原発はなくてはならない〟という世論を形成してきた実行部隊と言えます」(全国紙政治部記者)

血相を変えた営業社員

 東京・大手町の経団連会館に事務所を構える電事連の公式HPには、'52 (昭和27)年に9電力会社で設立された(沖縄電力は'00年から正式会員)など、最低限の情報しか記載されていない。電力10社が会員の任意団体で、職員も各社からの寄せ集めだろうとしか推測できない。取材を申し入れれば「任意団体なので、HPに書かれている以上の内容にお答えできない」と、取り憑く島もなく拒否という態度だった。

 民間の信用調査機関のレポート('10年5月作成)を手に入れたが、従業員数などが空欄で、電事連が機関の調査に協力しなかったことがうかがえる。興味深いのは〈現況〉の欄である。

〈活動資金は各電力会社からの会費(分担金)で賄っており、これは電力会社の規模に応じて異なるとされるが、その多寡に関しては判明しない。運営に特段の変化は無いとの見解が聞かれ、近年の会費収入は概ね20億円で推移、特段の変化はないものと想定される。仮に会費収入に大きな変動があったとしても、電力会社10社の必要に応じた業務受注、予算編成によるものであり、運営に特段の支障をきたすものではないと判断される〉

 ル・モンドは前出・3月26日の記事で〈このロビーは、情報を塞ぐことに手腕を発揮する。原子力は完璧に安全であるということを保証するために新聞・雑誌やテレビの大々的なキャンペーン広告に出資する〉と書いた。数少ない情報源である電事連の公式HPには、事業内容として〈電気事業に関する知識の普及、啓発および広報〉とある。次に紹介するのは、電事連の〈広報〉活動が、原子力ロビーの中で、危険な〝世論誘導〟の役割を担っているという証言である。

電事連が入る経団連会館。名門企業が軒を連ねる老舗ビルに本部を構えるあたり電力業界の力がうかがえる

 '87(昭和62)年に上梓した『危険な話』(八月書館)で原子力発電、放射性廃棄物の危険性を突いた作家の広瀬隆氏は、「原子力ロビー」の〝活動〟を身をもって体験した一人だ。広瀬氏は証言する。

「電事連が、『危険な話』に誤りがあるとするパンフレットを日本原子力文化振興財団(経産省所管)に作らせ、さらに新聞に意見広告を出して、徹底的に私を攻撃したことを覚えています。

 また、'88年か'89年のことでしたが、当時放送していた『11PM』(日本テレビ系)という番組に出演した際、原発を叩いたことがありました。生放送だったので編集されなかったのですが、CMの合間に控え室で番組ホストの藤本義一さんといると、テレビ局の営業セクションの社員が飛び込んできて、『(私に)しゃべらせるな!』『広瀬を映すな』と、藤本さんを怒鳴りつけたんです。

 藤本さんは、『事実を言って何が悪い!』と一喝し、引き続き原発の危険さを話させてくれました。雑誌に寄稿した際も経験しましたが、反原発の主張を展開すると、私ではなく、私が登場するメディアに圧力をかける。それが彼らのやり口でした」

 CM総合研究所の調査(東京キー局5社対象)によると、電事連のCMの放送回数は【'08年=406回】【'09年=365回】【'10年=356回】である。年間2000社がCMを放送しているといい、電事連の放送回数のランキングは、【'08年=596位】【 '09年=627位】【'10年=660位】となる。「毎日1回と少々、どこかの放送局が流している頻度で、順位としてはかなり高いほう」(CM総研広報担当者)だという。

 紙媒体にも電事連の広告は出稿される。ある民間の広告調査会社の週刊誌や月刊誌など主要10誌を対象にした調査で【'08年3月~ '09年2月=166ページ】【'09 年3月~ '10年2月=165・65ページ】【'10年3月~ '11年2月=141ページ】の出稿があった。広告業界関係者が説明する。

「調査対象に含まれているA誌のカラーページの広告が1ページ185万円。その価格は多少の割引があるとはいえ相場ですから、10誌だけで年間約2億6000万~3億円が、電事連から出版業界に流れ込む計算になります」

 広瀬氏の話に登場した営業社員ならずとも、相当量のCM出稿を見込める電事連に〝配慮〟する声がメディア内部から上がることは想像に難くない。この広告関係者によれば電事連がよく口にするのは「味方を作りたい」という言い回しだという。前出・広告業界関係者が続けた。

「文化人をはじめ各界に影響のある人物を広告に起用するなどして、原子力政策に理解あるサイドに立ってほしいという意味です。その人物がはっきりと原発賛成を叫ばなくても構わないんです。原発推進の立場の電事連のCMに名のある人が登場する。それで用は足りるのです」

 そして実際に原子力政策推進の舵を取るのは、政治家である。

「電事連の政界工作部隊はそう多くなく、全部で15人くらいです。1人が10~20人の政治家を担当し、エネルギー対策特別会計への更なる国費投入などを働きかけるのですが、最重要のミッションは原子力政策のシンパ獲得、またシンパを翻意させないことで、電源立地(発電所所在地)が選挙区にある議員を中心にご機嫌うかがいをしています。仙谷(由人)民主党代表代行が昨年から原発のセールスでベトナムを訪問していますが、電事連の働きかけがあって始めたと言われます」(東電社員)

 古くから永田町を知る政治部記者にとって、電力業界が自民党の旧田中派の牙城だったことは常識の範疇であるという。

「あまり知られていないが、六代目東電社長で電事連会長を長年務めた平岩外四は、自民党所属時代の小沢一郎(元民主党幹事長)の後援会長になった。東電の中興の祖である木川田一隆(四代社長)は政治献金を廃止し、政界と距離を置いていたので、その方針転換には驚いたものだ。福島が地元の渡部恒三(民主党最高顧問)が『農業の時代じゃない。これからは環境だ』と言い出したのは、まさにこの頃で、同じ田中派の小沢の動きを見て、CO2排出の少ない原発推進で電力業界との距離を縮めようとしたのだ」

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