私と宇宙兄弟
向井 万起男

 数年前、一人の青年から電話がかかってきた。講談社の漫画雑誌「モーニング」の編集者Sさん。面識はない。突然の電話だ。漫画雑誌とオレには何の関係もないとしか思えないけど、一体何の用だ?……

 実は、私は漫画というものをほとんど読まない。これまでに読んだ漫画をあげろと言われれば、すぐにあげられる。5冊もないから。ちなみに、私はSさんから電話をもらうまで「モーニング」という漫画雑誌の存在すら知らなかった。

 Sさんの用件というのは、若手の漫画家を一人連れて私を訪ねたいのだが会ってくれるだろうか、だった。そんなこと、私が断るわけがない。……Sさんは礼儀正しい青年だということが電話でもわかる。そういう青年が会いたいと言うのに会わなかったら天罰が下る。世の中はそういう風にできていると考えないとダメというのが私の持論なのだ。

 さて、Sさんが小山宙哉さんという男性を連れて私を訪ねて来た。二人とも年齢は私の半分くらい。二人とも礼儀正しい好青年だった。型通りの初対面の挨拶を終えると、Sさんが口火を切った。私に会いに来た理由だ。Sさんが言う。“小山さんは向井さんが書かれた『君について行こう』を読んで、宇宙飛行士を扱った漫画を描きたいと思っているんです„。おいおい、それってホントかよ。ホントならホントに嬉しいねぇ。オレって漫画には興味ないけどさ、それとこれとは話が違うもんね。私はイイ加減というか、調子のイイ男なのだ。

We are 宇宙兄弟 VOL.04
宇宙とヒトの
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 ……『君について行こう』は私たち夫婦の関係について書いた本と思っている人が多い。実際、私たち夫婦について書いている。でも、それだけを書いたわけではないというのが私の思いだ。宇宙飛行士の選抜について、宇宙飛行のための訓練について、宇宙飛行を実現するまでの過程についても詳しく書いたつもり。そういう本を読んで宇宙飛行士の漫画を描きたいと思い立つ青年がいるなんて、私には無上の喜びだ。

 私たち三人の会話は弾んだ。いや、正確に言うと、私一人が喋りまくっていた感じ。小山さんが宇宙についての漫画を描くなら『君について行こう』をドンドン参考にしちゃってイイし、宇宙飛行についてのナマ資料を貰えるようにJAXA(宇宙航空研究開発機構)関連の人を紹介してあげよう……。

 ところで、小山さんが一番強く反応したのは、私がこう言ったときだ。“宇宙飛行士だって人間なんだからさ、色んな宇宙飛行士を登場させてイイんだよ。たとえば、性格の悪い宇宙飛行士だってありだ„。小山さんは間髪入れず言った。“それを聞いて安心ました。実は、そうしたかったんです。„