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 未曾有の大震災が起こっても、役所の人事が滞ることはない。4月1日、日本銀行政策委員会審議委員として白井早由里慶応大教授(48歳)が就任した。

 日銀法第23条には、「審議委員は、経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、内閣が任命する」と書かれている。国会の同意が必要な人事で、政府は3月9日に白井氏起用案を提示。約3週間後の31日に、普段であればいろいろと注文をつける野党・自民党も文句を言わず、みんなの党だけが反対して、与野党の多数で国会を通過した。震災対応が優先で、かまっていられないということか。

 審議委員は定員6名。現在の委員の出身母体をみると、学者2名、産業界3名、金融界1名となっている。総裁、副総裁(2名)とともに日銀の最高意思決定機関である政策委員会のメンバーとして、金融政策や日銀の業務方針を決める。つまりは日銀の最高幹部のメンバーで非常に重要なポストだ。なお、年収は'10年度で2606万円である。

 学者枠は2名で、うち1名は女性枠とされる。学者にとっては憧れのポストである。審議委員は常勤なので大学を辞めなければいけないが、有り体に言えば箔が付くので審議委員を辞めても引く手あまた。再び大学に戻れる可能性も高い。

 このため、学者の中には、露骨に猟官運動をする人もいる。政府から推薦されて審議委員候補になるので、その前段階で政府の審議会委員になっている場合が多い。また、政府といっても財務省の力が強く、国会への根回しも財務省が行うので、財務省の推薦であればほぼ確実に審議委員になれるだろう。逆に言えば、審議委員になりたい大学の先生は財務省との仲を良好に保つので、選ばれるのは財務省の御用学者ばかり、ということになる。

 今回の白井氏も直前まで財務省の関税・外国為替等審議会委員。典型的な御用学者と見ていいだろう。また、2期10年務めた前任者の須田美矢子氏の後任で、女性枠として据えられたと考えられる。本来であれば、女性枠という考え方自体が古臭く、適材適所で選ぶべきだ。役所の審議会の延長線上で財務省が人選しているという実態が、こういう部分に透けて見える。

 白井氏には、金融政策に関する研究はほとんどない。IMF(国際通貨基金)に勤務の経験があり、開発経済や海外経済の実務・研究家という位置づけだ。

 ただ、為替については、明確な円高論者で、1ドル=80円台でも円高ではないという意見の持ち主だ。論拠は実効実質為替レートという指標で見た場合、過去20年間と比較すると今は円高でないというものだが、同じ指標で過去10年、過去30年と比べると最近の為替水準は明らかに円高である。都合のいい基準を持ち出して円高を否定するのだから、実際に円高で苦しんでいる中小企業の気持ちはわかるまい。

 円高とデフレは円の流通量が相対的に少ないことで起こる現象だ。だから円高論者はデフレ論者でもある。デフレ論者は日銀がおカネを刷ることに反対する。早速、白井氏は復興国債の日銀引き受けに反対した。

 円高論者は、円の価値のほうが輸出を担う中小企業より大切という立場。また、円の価値を強く維持したいのは日銀だから、日銀のほうが中小企業より大切。さらに今回の発言で、日銀のほうが震災被災者より大切という姿勢を示したことになる。日本経済に優しい人ではなさそうだ。

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