村上もとか 第4回
漫画だからこそのマニアックなこだわり

撮影:立木義浩

第3回はこちらをご覧ください。

村上 昔、高価だったビデオデッキはすごく欲しかったんです。「タイヤもの」を連載していたとき、テレビで放送されるレースがいちばん役に立った。当時、テレビの前でスタッフにカメラを構えさせて、わたしが「はい、そこ」といった瞬間に画面を撮っていたんです。だから「結婚祝いに何が欲しい」といわれたので、迷わず「ビデオが欲しい」と即答したんです。

シマジ なるほど。

村上 それまではテレビの中継をみながら、アシスタントに「いま奥に何がみえた?」「右側に森がありました」「ホントか」というやりとりを真剣にやっていたのですから。漫画だからこそ、マニアックなこだわりが必要になってくるんです。必ず読者は気づいてくれると思いそんなことをやり続けていました。

シマジ 村上さんがいう「読者の心に食い込む一枚」をはじめて描けたと思ったのはどの作品ですか。

村上 やっぱり『赤いベガサス』かな。たしか連載5回目にジャン・ギャバンに似たモンティというベテラン・レーサーがレース中に事故死する。モンティはレーサーとしての心を主人公の研に託す。そして研は死んだモンティに口づけをする。そのとき、いままでにはない凄いリアクションが読者から返ってきました。これはわたしが描きたくって描いた一枚だったのです。その後、読者の心を鷲掴みしたような強い手応えを感じたくって、『岳人列伝』『六三四の剣』『龍-RON-』『JIN-仁-』でも描きたくって描いた一枚があります。

シマジ たとえば講談社漫画賞に輝く『岳人列伝』ではどこですか。

村上 そうですね。エベレストの頂上を極めた登山家とシェルパ2人が凍りついた涙のまま、写真に写るというあの見開きの一枚の絵ですか。

シマジ 『六三四の剣』は柴田錬三郎先生の傑作『決闘者』からヒントを得たそうですね。同じ宮本武蔵ものでも吉川英治ものとシバレンものはまったくちがいますからね。吉川英治の宮本武蔵は武蔵がだんだん立派な人間になっていく教養小説風ですが、わがシバレンものは悪党で女を平気ですぐやっちゃうような獣のような男を書いてます。

村上 そうです。柴田さんの武蔵からかなりヒントを得ました。

シマジ 主人公の六三四が盛岡出身で東北のなまり丸出しもよかった。わたしは一関に疎開していましたから、あの方言には親しみを覚えました。どうして盛岡を舞台に選んだんですか。