個人も企業も街を捨てる「現代のエクソダス」を防ぐために復興策を急げ
長引く原発問題で日本脱出が起きる前に
〔PHOTO〕gettyimages

 東日本大震災と原発事故で壊滅した街と暮らしをどう立て直すか。政府は原発対応に追われるばかりで、肝心の復興策づくりが進まない。

 菅直人首相は有識者や被災自治体の首長らによる「復興構想会議」の創設を表明した。これまでに新設された震災関連の本部や会議だけでも7つを数える。まさに「会議は踊る」状態だが、中身の議論はさっぱり聞こえてこない。

 先週末には、民主党の「復興対策基本法案」なるものが新聞各紙で一斉に報じられた。ところが、岡田克也幹事長が「増税は議員個人のアイデア、党として議論したことはない」とか「震災国債の日銀引き受けはあり得ない」と否定するありさまだ。

 この非常時に政権党の復興法案が報じられながら、責任者である幹事長が直後に中身を否定するとは、いったいどういうことなのか。およそ党としての体をなしていない。幹事長が党内論議をまとめきれず、文書の取り扱いさえ掌握していない実態を自ら暴露したようなものだ。

 この「復興法案騒ぎ」とは、個々の議員が思いつきで喋った話をもっともらしく並べ立てて、功を焦った関係者が特定の新聞に漏らしただけではないか。

 まったく同じような展開が鳩山由紀夫前政権の発足時にもあった。国家戦略局や国家戦略相の新設をめぐって、政府内での役割分担も詰まっていないのに、勝手な構想だけがばらばらと独り歩きして報じられた。

 重要案件をめぐって生煮えの案が外にだだ漏れしていく民主党の体質は、依然として改まっていない。言論の自由があるとも言えるが、本質を言えば「口先だけで手柄を狙う政治家」が多すぎるのである。

 菅は「山を削って高台に住宅を建てる」などと大風呂敷を広げたが、この調子では、いくら会議をつくっても、具体的な復興案をまとめるまでには時間がかかりそうだ。まして実行するとなると、かなり先になってしまうだろう。

 そこで、もしも政府がなにも復興策をしないとすれば、どうなるか。「図上演習」をしてみたい。

 いまのような非常時に政府が緊急援助くらいで、なにも復興策をしないと仮定するのは非現実的と思われるかも知れない。だが、ひとまず極端な仮定をして国民生活をイメージしてみるのは、逆に有効な復興策を考えるのに役立つはずだ。

 平時には政府が下手な政策を続ければ、国民の暮らしは緩慢に苦しくなる。ところが非常時に政府がなにも対策を施さないと、国民は暮らしどころか、命が危うくなる。極端な無策は極端な犠牲を招くので、かえって政策の有効性が浮き彫りになるのである。

株主への説明がつかなくなる

 まず、個人の家計からだ。

 大震災で多くの人が亡くなったばかりか、家や資産を失い、職も失った。このままでは食べていけない。当分は援助に頼るとしても、長くは無理だ。どうするか。仕事を探すしかないが、主力だった水産業は壊滅状態に近い。理髪のような生活密着のサービス業はすぐ需要があるだろうが、会社ごとなくなってしまったようなケースでは難しい。

 すると、仕事がありそうな地域に家族ごと引っ越しする選択も考えざるをえない。

 若者はゼロからの再出発より東北、いや日本を離れることを視野に入れるかもしれない。若者にとって、仕事とは自分の将来そのものだ。「空を見上げれば放射能」の国を捨てて青空の国を選んだとしても、だれも非難できないだろう。

 企業はどうか。水産業は大変だ。船も加工工場もなくなった地域が多い。残った船を使って細々と漁業の再開を考えるだろうが、原発の放射能漏れが重くのしかかる。魚の放射能汚染が広がっている現状では、獲った魚が売れない可能性も高い。

 自動車関連や電気部品など製造業は被災した設備の更新をどうするか。親会社の支援をあてにできるところはまだしも、そうでなければ資金手当てがハードルになる。新たに設備投資を考えるとしても、地震再発や放射能漏れの不安がつきまとう。

 外国資本による東北地方への投資は落ち込むだろう。ほかに候補地があれば、地震と放射能漏れ事故が起きた日本になぜ投資するのか、株主への説明が難しくなるからだ。

 すでに外資系金融機関で働く欧米人は何百人も東京を脱出して、香港などへ退避している。グローバル市場を相手に仕事をする人々は、日本にこだわる動機がもともと薄い。これは製造業でも程度の差こそあれ、同様である。

 一過性の地震と津波に比べて、どうやら放射能漏れ事故は長期化が必至である。

 すると、福島第一原発の周辺地域は人が住めなくなる。役所も企業も戻らず、つらく悲しいことだが、事実上「見捨てられた街」になる可能性が高い。周辺の海も同様だ。少なくとも数年間、夏に海水浴をする人はいなくなるだろう。

 原発周辺を境にして日本が東と西に分断され、人々の暮らしが激変する。ひと言で言えば、東北沿岸部から人と企業が逃げ出してしまう。政府がなにもしないなら、まさに「見捨てられた街」が東北のあちこちに出現するのである。

 以上が最悪ケースである。もちろん、そんな事態があってはならない。

 だからこそ、早く復興策が必要なのだ。その骨子になるのは「東北大脱出」の流れを逆にする政策、すなわち地元の人と企業を大切にして、これまで以上に暖かく外資を迎える政策である。そのために、なにが考えられるか。

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