大震災は日本のスポーツ界をも直撃
大会中止相次ぎ、プロ野球は開幕ずらす[スポーツ]
選抜高校野球大会の開会式で応援するメッセージを掲げる観客たち=阪神甲子園球場で3月23日

 例年なら「球春」の言葉に心浮き立つ季節だが、東日本大震災で浮かれた気分が一気に吹き飛んでしまった。予定していたスポーツイベントは次々と中止となり、スポーツ界は慌ただしく対応に追われた。その一方で海外で活躍する日本人選手たちは相次いで義援金を募るなど被災地住民へ熱いエールを送っている。

 3月11日に発生した東北地方を中心に東日本全域を襲ったマグニチュード9・0の大地震。大津波は前例のない規模で各地に壊滅的な被害を与え、福島原発の事故が不安と混乱を増幅させ、長期化させる事態となった。スポーツ界も例外ではない。

 地震が襲ったまさにその瞬間、横浜スタジアムでは横浜とヤクルトのオープン戦が行われていた。七回のヤクルトの攻撃中、激しい揺れが襲い、観客席は大きく波打ち、約3700人の観客から悲鳴が上がった。再開を待つ間に2度目の強い揺れが襲い、ゲームは打ち切りとなった。神宮球場では社会人野球東京スポニチ大会の決勝戦の開始直前、大きな揺れに見舞われ、結局、両チーム優勝という異例の措置を取った。

 2日後の13日に予定していた名古屋女子マラソンが中止となったほか、21日から東京・国立代々木第1体育館で行われる予定だったフィギュアスケートの世界選手権も早々と中止を決定。開幕して間もないJリーグも4月中旬までリーグ戦の中断を決め、春休み期間中に予定されていた高校の各種大会も中止に追い込まれた。

選抜は「がんばろう!日本」

 こうした中、延期か強行かで注目を集めたのは3月23日に開幕予定だった甲子園の選抜高校野球大会と、同25日にセ・パ同日開幕を予定していたプロ野球の対応だった。

東日本大震災の被災者の募金活動を終え、ファンに一礼する楽天の選手たち=名古屋市東区で3月19日

 選抜高校野球は開幕5日前の18日、大阪で臨時運営委員会を開き、予定通りの開催を決めた。電力消費量軽減を考慮し、開会式の入場行進を中止するなど簡素な運営に努め、「がんばろう!日本」をスローガンに、被災地を元気づける大会にすることにした。

 震災で多くの犠牲者を出した仙台市の東北高校をはじめ被災地から出場する高校が予定通りの開催を希望したことに加え、甲子園球場は電力消費の問題がなかったことも開催に踏み切る大きな要因となったようだ。

 これに対し、プロ野球の対応はセ・パの足並みが乱れた。

 東北楽天は本拠地のクリネックススタジアム宮城が被災し、千葉ロッテも本拠地球場が地震の被害を受け、パ・リーグは開幕を4月12日に延期することを決めた。

 しかし、セ・リーグは予定通りの開幕にこだわり、大いに迷走する。東北楽天のように直接的に震災を受けた球団がなかったこともあるが「興行優先」の姿勢が強い批判にさらされた。

 福島原発の事故で電力供給不足に陥った東京電力は14日から計画停電の措置をとったばかり。首都圏では企業も住民も計画停電と公共交通機関の運転削減で不便な生活を強いられるようになった。そんな中、電力を大量消費するナイターが歓迎されるはずがない。

 まず声を上げたのは労組・プロ野球選手会(新井貴浩会長=阪神)だった。「分離開催は望ましくない」としてセ・リーグもパ・リーグと同調するようプロ野球機構(NPB)に申し入れた。

 これを受け、加藤良三コミッショナーは17日に持ち回り実行委員会を開催、両リーグの歩み寄りを期待したが、セ・リーグは「25日開幕」を譲らなかった。このセのかたくなな姿勢はさらに激しい世論の反発を呼んだ。

 セ・リーグの「暴走」にストップをかけたのが監督官庁の文部科学省だった。実行委員会の翌18日、鈴木寛副文科相名でNPBに対し

(1)東京電力、東北電力管内以外の地域での試合開催に努める
(2)両電力管内では夜間の試合を厳に慎む

 の2点を文書で通達した。表題は「協力のお願い」としているが、セ・リーグの無神経な対応に対するあからさまな不快感が読み取れる内容だ。

 セ・リーグ理事会は19日、開幕を4日遅らせ29日と歩み寄ったものの、この程度の微調整で解決するはずがない。高木義明文科相と蓮舫・節電啓発担当相は「計画停電も実施している中で、ナイター開催は国民の理解を得られない」と再び差し戻した。

 最終的にセ・リーグは24日に理事会を開き、パ・リーグと同じ4月12日に開幕することで決着したが、そもそもセ・リーグが「3月25日開幕」にこだわり続けた背景に何があったのだろう。

 巨人の渡辺恒雄会長(読売新聞グループ本社会長)は16日に開かれた財界人による巨人の応援団体の会合で持論を展開した。開幕の延期論議を「俗説」と切り捨てたうえ、「戦争に負けた後、3カ月でプロ野球を始めた」と昔話を持ち出し、「選手が命がけでいいプレーをすれば元気が出るし、生産性も上がる」とぶち上げた。

 渡辺会長の意向がリーグばかりか加藤コミッショナーに強い影響を与え、ミスリードに導いたとの見方が強い。球界のドンの「老害」が混乱の元を作り、セ・リーグの独善ぶりばかりがクローズアップされる結果となった。

 こうした国内の大混乱をよそに海外で活躍する日本人選手からさまざまな形で被災地を応援する動きが広まっている。

 大リーグではイチロー選手や松井秀喜選手らが相次いで巨額の義援金を寄せた。松坂大輔選手らが所属するレッドソックスや西岡剛選手が加入したツインズはチームメートも協力して募金活動を展開している。

 日本人選手が各地で活躍している欧州サッカーでも日本を元気づける支援の動きが広まっている。スペインリーグの覇者・FCバルセロナの試合会場に「頑張れ、日本! 僕らは日本と共にいる」と日本語とスペイン語で書かれた横断幕が掲げられるなど、被災の甚大さに心を痛め、連帯を呼び掛ける支援の輪が広がっている。

 スポーツを通じて被災者の力になりたい、という熱いメッセージが世界中から届く。これらの声が復興への支えとなることを願わずにいられない。

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