企業・経営
大震災復興に必要なのは「起業家」と「事業家」のパワーだ
創業者は「起業家」「事業家」「経営者」の3タイプがいる

 筆者の独断ではあるが、自ら会社を興した創業者には、「起業家」「事業家」「経営者」の3タイプがいると感じている。これは決して言葉遊びではない。求められる資質が違うのではないかと思う。

 起業家とは文字通り、自らリスクを取って会社を起業した人物であるが、筆者は新しい会社を作ればそれがみな起業家と呼べるかと言えば、そうは思わない。発明家とも違う。ここでいう起業家とは、既得権や既成概念と対立しながら今までの世の中に存在しないような新技術や新サービスをゼロに近いところから生み出し、社会に新たな価値観を作り出した人である。

 すなわち、壮大な構想力の下、自ら産み出した技術やサービスが人々の暮らしぶりを変えてしまうような人である。技術やサービスを産み出すまでに至らなくとも、その行動や考え方が産業や社会の有様を変えてしまえば、起業家と言えるのではないだろうか。だから起業家は思想家でもあるのだ。

 事業家とは、合併や買収などのテクニックを駆使してすでにある技術やサービスなどをうまく組み合わせてビジネスを拡大していく人である。もちろん起業家と同様に自らリスクテイクして新しい会社を作るケースもあるが、それはむしろ買収や合併の受け皿としての会社である。会社をゼロから興したわけではないが、親の会社を受け継ぎ、その業態を変えたり、業容を拡大させたりしている二代目社長も事業家の範疇に入るだろう。経営のスキルを重視するタイプではないか。

 経営者とは、自分が経営の第一線から退いたり、死去したりしても、自分が設立した会社を長く続かせることができる仕組みを作った人のことである。後世に評価が定まる。元起業家、元事業家も後世に「経営者」と呼ばれることはあるかもしれない。起業家として出発してビジネスが順調に拡大して事業家に転じ、その人が死後も会社が永続する仕組みを作れば立派な「経営者」と言えるだろう。

一人三役をこなした松下幸之助

 歴史上の人物にたとえれば分かりやすい。織田信長は「起業家」である。半農だった当時の武士団を専業にしたり、集団戦で鉄砲を使う戦術を産み出したり、信仰崇拝の対象であった比叡山延暦寺を焼き打ちしたり、戦国大名のイメージを完全に打ち壊し、新しい統治形態を模索していた。

 豊臣秀吉は「事業家」である。信長から受け継いだ「遺産」をベースに、巧みな交渉術で難敵の徳川家康を表面的に臣従させ全国を統一した。しかし、「朝鮮出兵」という「買収戦略」に失敗して政権基盤が揺らぎ始め、自分の死後、豊臣政権は崩壊し、事実上一代限りであった。

 徳川家康は「経営者」である。自分の死後、200年以上続いた江戸幕府という組織体系を整えたからだ。

 ベンチャーの創業者に人気の坂本竜馬は「起業家」であろう。「脱藩」という当時の既成概念から大きくはみ出した行動を取り、「薩長連合」を仲介して成立させたことが江戸幕府という既得権を打ち壊したことにつながったからだ。

 これも筆者の独断であるが、起業家は「野垂れ死」にすることが多い。信長は家臣の明智光秀に殺され、竜馬も暗殺されている。ビジネスの世界でもベンチャーは「センミツの世界」と呼ばれることがある。1000社設立して3社くらいしか成功しないというイメージからそう呼ばれるのだ。

 起業家は「野垂れ死」覚悟で自分の夢や哲学を愚直に追い求める。権力にも迎合しないし、既得権者とぶつかり、潰されることもある。さらに、新しい技術やサービスを産み出すことはできても、会社を潰してしまうことが多々ある。決して経営がうまいタイプとはいえないのだ。

松下幸之助氏〔PHOTO〕gettyimages

 これに対して事業家は着眼点と要領がいい。人たらしで、時には「爺殺し」をして財界の長老も味方につける。起業家が失敗したビジネスを引き取りうまく軌道に乗せることもある。自分の会社の経営がやばいと思えば、すぐに方針転換もする。また、起業家として成功して事業家に転じるケースもある。

 経営者は前述したように死後に評価が定まる。起業家→事業家→経営者と求められる資質が違う「三役」を一人でこなせる人もいる。この「三役」を一人でこなした人物で、誰もが知る人を挙げなさいと言われれば、筆者は一人しか思いつかない。それは、松下幸之助氏である。松下電器産業(現パナソニック)をゼロから興し、途中、買収をしながら会社を大きくし、自分の死後も会社が存続するような組織を作った。

 本田技研工業を創業した本田宗一郎氏を挙げる人がいるかもしれないが、本田氏は一人で本田技研工業を育てたわけではなく、藤沢武夫氏との二人三脚だったので、一人で「三役」をこなしたとは言い難い。

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