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メガネをかけずに立体に!ビジネス・トレンド
次世代液晶テレビ"4K"の正体

アジア最大のIT展示会CEATECでは、
シャープと東芝がしのぎを削っていた
(上)シャープのブースでは、コンパニオンと、持ち運びできるフリースタイル・アクオスの群れが来場者を迎えた
(下)東芝ブースは、4Kテレビ、6放送局15日分の全番組を一時保存できるブルーレイ、タブレットの3面展開

 今年のはじめ、家電量販店には3Dテレビが鎮座していた。あれから1年も経たずして、次世代テレビのトレンドは移ろうとしている。キーワードは、テレビにとって「王道」とは何か---。激突するシャープと東芝の開発者が、その内側を語った。

立石泰則(ノンフィクション作家)

 東日本大震災から約8ヵ月。日本メーカーの海外移転や産業の空洞化の加速が指摘される中、アジア最大級のIT・エレクトロニクス総合展示会『CEATEC(シーテック) JAPAN 2011』が、幕張メッセ(千葉市)で10月4~8日の日程で開かれた。日本の有力電機メーカーなど国内外から586社が出展し、来場者数は約17万人。前年と比べるとその数はやや減少したが、経済環境の厳しさを考慮に入れれば、それなりの存在感を示したと言えそうだ。

 今回のシーテックで注目すべき点は、新しい次世代テレビの潮流が現れたことだ。フルHD(ハイビジョン、1920×1080画素)の4倍密度の4K(3840×2160画素、欄外注)映像を実現した大型液晶テレビが出展されたのだ。それを我々の眼の前に提示したのは、シャープと東芝の2社である。

 今年1月に米ラスベガスで開催された世界最大の国際家電見本市『CES2011』では3Dテレビ、インターネットテレビ、スマートフォンを含むタブレットの3つがトレンドだった。「3D元年」と騒がれた '09年から何年も経っていないが、シーテックを見る限り、次世代を制するのは間違いなく「4K液晶テレビ」であり、メーカーの技術者からも「2012年は〝4Kテレビ元年〟になる」という声が聞こえてきた。

「4K AQUOS」を作ったのは、シャープの寺川雅嗣執行役員(右)とⅠ3研究所の近藤哲二郎社長のタッグ。「日本発の製品で世界をリードする」(寺川氏)

 では、4Kとはどんなテレビなのか。

 シャープは60インチの「ICC4K液晶テレビ」(通称、4K AQUOS)をブース内に展示した他、フルHDの液晶テレビの映像と比較して視聴できる専用ルームを設置していた。視聴してまず驚くのは、画面の隅々まで焦点が当てられ、どの箇所の映像もぼやけたりすることなく、くっきり見えることだ。そのため、奥行き感が出て映像が立体的に見える。

シャープ専用ルームで見ることができた「4K AQUOS」の画面。女性の髪や肌の質感がリアルに伝わる

 映像が飛び出す3Dでなくても立体映像を十分に楽しめるのだ。ブロンドの若い外国人女性が映し出されたが、その髪の質感、唇の肉感的な感覚が伝わり、すぐ傍らにいるような印象を受けた。

 花びらが舞いながら下の池に落ちていくシーンでは、HD映像では紙吹雪に見えるが、4Kでは花びらの一枚一枚がひらめいて形を変える様子が分かった。

 もはや従来のテレビとは、明らかに違っていた。ちょうどモノクロからカラーへ、標準からハイビジョンへ、アナログからデジタル、デジタルハイビジョンに替わった時、いやそれ以上に一目瞭然に従来のテレビとの違いが分かった。

3Dテレビが伸びない理由

 では、あれだけ騒がれた3Dテレビは、なぜ勢いをなくしたのか。大手家電量販店の仕入れ担当者は、こう説明する。

「売れてはいるのですが、大型テレビはほとんどが3D対応ですから、結果的に3Dテレビが売れたことになり、来店客が3Dを求めていたのかは分かりません。3D放送はBSなど一部で行われているだけですから、地上波で始まらなければ、3Dテレビが欲しいという声は大きくならないと思います。消費者が求めていることで確かなのは、3Dと2Dの価格が同じになることです」

 消費者はテレビを買う上で、3Dを高付加価値と認めていないのだ。だから液晶テレビ同様、市場での価格下落を免れない。家電専門誌の記者もこう言う。

「家電量販店では高額な3D用メガネを売ろうとしません。(3Dを)見ないから必要ないと考えています。地域店(町の電気屋)では逆に、価格を量販店ほど下げられないので、購入者にはメガネを家族の人数分、タダで渡す店もあります」

 調査会社GfKのアンケート(4月28日~5月5日)によれば、購入者の75.5%が3Dテレビに対し何らかの不満を持っており、その最大の不満が「視聴姿勢制約」にあるという。3Dを体感するには、正面から画面を見るなどの制約があるため、寝そべってビールを飲みながらの野球観戦など言語道断となるのだ。

 3Dから4Kへ。そのトレンドを作ったのが、日本の電機メーカーの中で、3Dテレビに一番熱心だったソニーとパナソニックではなく、シャープと東芝であることは興味深い。両社は、対照的な企業である。ブラウン管という自前のディスプレイ(表示装置)を持っていた東芝が液晶テレビに乗り遅れ、液晶パネルを外部から調達しなければならなくなったのに対し、シャープは自前のブラウン管を持たず、それゆえ自前のディスプレイを持つ悲願を液晶パネルの開発に成功して実現している。

 一方、両社には、液晶テレビの「高画質(高精細)化と大画面化」を第一に追求したという共通点がある。例えばシャープは、カシオなどとの熾烈な「電卓戦争」を勝ち抜く中で、数字の表示装置として液晶に目を付け、'70年代に入るとモノクロの液晶ディスプレイを完成させる。この小さな液晶ディスプレイにブラウン管に代わる新しいテレビの可能性を見出したシャープは、液晶テレビの開発に集中投資し、'01年に「アクオス」シリーズの発売に漕ぎ着けた。

 AVシステム開発本部長の寺川雅嗣氏(執行役員)が、4Kについて語った。

「'04年頃、60インチのフルHDのテレビを作った時点で、4Kパネルは実現できると思っていました。問題は、まったく違う価値を持つテレビだと認められることでした。テレビの本質に立ち返って考えた時、『テレビとは遠くにあるものが自分の近くで再現できるもの』と思いました。それには一つは臨場感(画面サイズ)で、もう一つが実物感(高精細)を満たすことです」

 しかしシャープには、テレビ局から送られるHDの映像を4Kに変換するエンジン(画像処理技術)がなかった。そこで、寺川氏は近藤哲二郎氏が社長を務めるアイキューブド(Ⅰ3)研究所との共同開発に踏み切る。近藤氏は元ソニー役員で、最先端のデジタル信号処理研究所の所長を務めていた。ソニー時代、標準放送をハイビジョンクラスの映像に変換するデジタル高画質技術「DRC」を開発したことで知られ、今年5月にHDを4K映像に変換する技術「ICC(統合脳内クリエーション)」を開発し、発表していた。

 寺川氏は近藤氏に連絡を取り、4Kテレビ実現への共同開発を持ちかけた。実は、近藤氏には韓国のサムスンとLG、国内では東芝と三菱電機を除くすべての有力電機メーカーがコンタクトしていた。その中で、一番最初に声をかけ、近藤氏を訪ねたのが寺川氏だった。ここにⅠ3研究所のICCと、シャープがアクオスで培った大画面・高精細液晶技術を統合する素地ができたのである。

4K液晶の「REGZA 55X3」の画面を覗き込んでその高精細な画質をアピールする東芝の本村裕史氏
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