牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」
2011年10月20日(木) 牧野 洋

現場に記者がいなかった事実を隠した「鉢呂発言」報道、オリンパス疑惑をスクープをした雑誌を後追いしても「黙殺」ーー日本の新聞報道倫理は「ガラパゴス化」している

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鉢呂前経産相の辞任会見〔PHOTO〕gettyimages

 あなたが新聞記者として、有力政治家が問題発言をしたとのニュースを耳にしたとしよう。あなたは現場に居合わせなかったが、問題発言を報じなければならない。どのように報じるべきか。

 言うまでもないが、あたかも現場に居合わせて問題発言を直接聞いたかのように報じるのは論外だ。正攻法は、「一部報道によると」などと他社のニュースを引用して伝える「転電」である。「事実を正確に伝える」をモットーにしているメディアにしてみれば、報道倫理の基本といえよう。

 ところが、日本の報道界ではこんな基本が守られていない。それを象徴する"事件"が前経済産業大臣・鉢呂吉雄氏の「放射能をうつしてやる」発言をめぐる報道だ。「現代ビジネス」コラムニストの長谷川幸洋氏が詳しく舞台裏を書いたように、この発言に対して批判が渦巻き、鉢呂氏は9月11日辞任に追い込まれている。大臣就任から1週間余りの出来事だった。

 取材現場は東京・赤坂の衆議院宿舎の玄関前で、日時は9月8日の夜。同月13日付の朝日新聞朝刊に載った検証記事によると、現場では5、6人の記者が鉢呂氏を取り囲み、その後ろから朝日新聞とNHKの記者がやり取りに加わった。ということは、同氏を直接取材したメディアは7、8社にとどまるわけだ。

 にもかかわらず、現場に記者を派遣していなかった新聞社やテレビ局も、現場で直接取材したのかどうか明らかにしないままで一斉に鉢呂発言を報じたのである。多くは「~という趣旨の発言をしていたことも判明」といった表現を使い、情報の出所をあいまいにしている。

独自取材で発言のウラをとったのか

 鉢呂氏本人は「『うつしてやる』とか『分けてやるよ』と言った記憶は本当にないんです」と公言している。だとすれば、現場で直接取材しなかったメディアは、直接取材した記者団に取材して記事を書いたのだろうか。同氏が「記憶にない」と言っている以上、記者団に取材しなければ「放射能をうつしてやる」という発言内容を知りようがないからだ。

 だが、「現場で直接取材した記者団に確認したところ、『放射能をうつしてやる』と発言していたことが分かった」などと報じているメディアはない。つまり、仮にまた聞きで書いたのだとしても、その事実を明らかにしていない。そもそも、ライバル会社に取材してニュースを書くというのは常識的には考えにくい。

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