メディア・マスコミ
女性に話を聞かないで女性を特集する
日本の大新聞の取材先は「市民より権威」

ガソリン高騰報道も日米では大違い

 前回(ジャーナリズムスクール留学でパラダイム変化)は、日本の新聞紙面上には「観察者が観察者に取材して書いた原稿」がいくらでもあると指摘した。観察者にすぎない記者が観察者にすぎない当局者や専門家に取材し、記事にまとめてしまうのである。

 また聞きで書いた「お手軽原稿」と言ってもいいだろう。主人公の当事者が登場しないから、本当なのかどうか第三者が検証するのも難しい。「権力対市民」という構図の中で、権力寄りの権威主義的な方向を打ち出すのか、それとも市民の視点を強調するのか、という問題でもある。

 日本では、長文の読み物であるフィーチャー記事であっても「お手軽原稿」がある。1988年にコロンビア大学ジャーナリズムスクール(Jスクール)を卒業して以来、20年以上にわたって主要紙の紙面を点検するなかで、最も印象に残った記事が1998年1月1日付の日本経済新聞の1面トップ記事「女たちの静かな革命」だ。

「日経新聞」1998年1月1日より

当事者の女性は一人だけ

 元旦に1面で始まる特集は「正月特集」と呼ばれる大型連載だ。通常は特別取材チームを発足させ、週カ月かけて徹底取材する。「女たちの静かな革命」は、女性を主役にして日本再生が始まるという特集だ。

 元旦の連載第1回目で、記事中に誰が登場するのか順番に列挙すると、次のようになる。私自身、読み進むにつれて違和感を覚えた。

 *東京・新宿の小田急百貨店の担当者。クリスマスの子供向けに売り出したクマのぬいぐるみが若い独身女性向けに売れていることに驚く。

 *セコムの広報室長。ストーカーなどの犯罪が増えたため、独り暮らしの女性の間で同社の住宅警備システムが人気になっていると説明。

 *神奈川県相模原市の葬儀場、相模原会館を運営する互助会の幹部。婚礼人口が減るとの判断から、結婚式場から葬儀場へ経営形態を変えたと説明。

 *三和総合研究所の主任研究員。経済の低成長化を背景に女性の間で「結婚すれば生活水準が年々向上するという夢」が崩れてしまったとコメント。  

 *英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの助教授。セミナーで「結婚も同せいもしない単身者の増加は日本独特の現象で、ミステリーだ」と指摘。

 *リベラリストの論客、石橋湛山。大正初期に「良妻賢母は明治維新後の過渡期の産物であって、婦人をこの桎梏から放ってやらねばならぬ」と喝破。

 いずれも「革命」を担う女性自身ではない。第三者の立場で女性を観察している権威筋である。「女性の時代がやってきた」と叫んだところで、観察者にすぎないことから迫力に欠ける。そんな観察者に取材しているのが、やはり観察者にすぎない記者であるわけだ。

 記事中、百貨店の担当者が「主な買い手は独身とみられる若い女性」と語っているが、本当なのか。二次情報であるから、何を根拠に話しているのか分からない。実際にクマのぬいぐるみを買っている若い独身女性を登場させていれば、信憑性が高まったはずだ。

 「女たちの静かな革命」の中で主人公である女性が1人も出てこないわけではない。1面のおよそ半分を占める全7段抜きの記事の中で最終段、すなわち7段目になって登場する。自主廃業した山一証券の企業部次長から中堅素材メーカーの営業部長へ転職した女性だ。記事の最後に登場する社会学者ダニエル・ベルも含め、コメントが引用される8人のうち、当事者の女性は1人だけということだ。

 しかも、この女性は記事中では簡単に紹介されているだけだ。営業部長としてどんな日々を送っているのか、描写されていない。結婚して子供がいるのかどうか、それも分からない。山一時代に人事評価制度の改革を訴えて奔走しながらも、耳を傾けてもらえなかった---こう書かれているだけだ。

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