為末大「アスリートにできること」
リレーコラム「Be ambitious! 」第1回
【PHOTO】gettyimages

2011.03.12

アスリートにできる事

 未曾有の災害が日本を襲っています。歴史上これまでにないほどの災害を前にして、今日本が必死で一つになり戦おうとしています。被災者の方の無事を願いながら、自分自身がサンディエゴにいて日本に何もできない事をもどかしい思いでいます。

 こちらでも日本の信じられないほどの冷静な対応が報道されています。一日都内で夜を過ごしたにもかかわらずホームで整列する人々、略奪もなく淡々と商品にお金を支払う人々、お互いに助け合い信頼し合う人々。世界中が驚愕の思いで日本を見ています。

 私の印象を一言で言いまして、日本は本当に一つなんだという事です。平時にはこの他人と違う事を恐れる日本人の性質は様々な問題を起こします。ですが、こういう非常事態になるとまるでリハーサルでもされていたかのように日本人の行動が全体でそろっているようで、見ていてまるで日本という一人の人格が対応しているようにすら見えます。そして決して崩れないモラル。平時では浮き出ない本当の日本人の底力が発揮されていると思います。

 アスリートの皆さん。今すぐ現場に駆けつけて何かをしたい。せめて今いるところから何かできないか。そういう思いに駆られているかと思います。けれども災害発生直後数日の間、私たちが現場にできる事は遠方からの支援しかありません。個人で物資を送る事も混乱を生むとの情報から、現状では寄付行為が一番役に立ちます。

 アスリートにできる事はまず人を励ます事、影響力を発揮して支援の輪を広げる事、そして大切なのは毎日のトレーニングを淡々と行う事です。

 現場には必要なだけのプロフェッショナルが駆けつけているようです。こちらのニュースでも世界中のエキスパートたちが続々と日本に向かっていると報道しています。世界中のプロフェッショナルが被災地を救うべく向かっています。残念ですが素人が出ていってできる事はありません。

 国民の日常の行いが破綻してしまえば国家も破綻します。どんなに混乱しても日々の営みは行われてないといけません。今まで自分が毎日やってきていた役割をこういう災害時でもかわらず淡々と行う事が大切だと思います。自分の本職が何かという事を落ち着いて改めて見つめて、その本職を淡々とこなしてください。

 災害は一瞬では終わりません。この危機を乗り越えても、これから長い間続く戦いが待っています。それは相当長い戦いになるはずです。

 災害時のプロはまさに今活躍してくれています。輸送のプロは今必死で物資を現場に届けてくれています。報道のプロはできうる限り確かな情報を報道しようとしています。

 私たちアスリートは希望をもたらすプロフェッショナルです。私たちがこれまで国から社会から支援を受けたのは人々に希望をもたらす存在だからです。苦しいときに人々の力になり得る存在だからです。

 どうかアスリートの皆さん、自分にできる範囲で人々を励まし、そして自分の本業のトレーニングを続けてください。きっと私たちでないと対峙できない問題が日本に訪れます。その時が私たちアスリートが本領を発揮するときではないでしょうか。

 おそらく皆さんが感じられているように、私は私の人生で今日ほど日本人である事を誇らしく思った事はありません。日本は決して屈しない。私はそう確信しています。

* 為末大のチームチャレンジ「TEAM JAPAN」はこちら

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 この原稿は「侍ハードラー 為末大オフィシャルサイト」(以下)から転載したものです。 

http://tamesue.cocolog-nifty.com/samurai/2011/03/post-c95f.html

為末大(ためすえ だい)
1978年5月3日、広島県出身。身長:170cm 体重:66kg世界大会において、トラック種目で日本人初となる2つのメダルを獲得し、3大会連続オリンピックに出場した陸上選手。現在は4大会目となる2012年ロンドンオリンピックを目指している。"侍ハードラー"の異名を持ち、"陸上宣伝部長"として競技のPR、普及にも貢献。
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