自由化を拒否したコメは瀕死、競争を選んだ国産サクランボは1.5倍にー「TPPで市場を開けば日本の農業は壊滅する」は本当か
PHOTO:Getty Images

  本日10月17日21:00から放送されるテレビ朝日『テレビタックル』に出演する予定だ。その収録の際にTPPの議論になったが、あまりに時間が足りなかった。この場を借りて補足したい。

 11月のAPEC首脳会議という期限がせまって、ようやくTPPに関する政府・与党内の議論がスタートした。 

 TPPの正式名称は、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans‐Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの自由貿易協定(FTA)として2006年に発効し、その後、米国、豪州、ベトナムが参加するなどして、現在は計9ヵ国で枠組み作りに向けた交渉を行っている。

 モノやサービスはもちろん、政府調達や知的財産権なども対象とする包括的FTAで、原則として15年までにほぼ100%の関税撤廃を目指す。当然、農産物も例外ではない。 

TPPに対しては案の定、JAなどの農業関係者は猛反発している。反対の理由は「安全でない食品の輸入」だ。また、TPPは農業分野以外のサービスまで対象になるので、医師会も反対している。医療分野への外資系株式会社参入などを警戒しているのだ。その時の脅し文句は「TPPは国民皆保険制度の崩壊につながる」だ。 

TPPについては、その経済的な側面と国際交渉としての側面があり、二つの観点から誤解が多い。 

貿易自由化はプラスのほうが長期的に多い

まず経済的側面であるが、貿易サービス自由化(以下、単に「貿易自由化」という)が国民経済を豊にするというのは古くからある命題だ。この点から見れば、あくまで日本の国益のために自由化が望ましい。貿易自由化が望ましいとのロジックは経済学の中でも200年程度の長い歴史で実証されているものなので、世界共有財産ともいえる英知である。 

もちろん貿易自由化によってマイナスはあるがプラスのほうが長期的に多いことが経済理論的にわかっている。もし、これを否定できれば、ノーベル賞級の業績である。 

今の段階で世の中に氾濫している貿易自由化によるデメリットはほとんど貿易自由化によって当然生じるマイナス面だけをいっており、プラス面には言及しない。経済理論は、マイナス面はあるがプラス面のほうが大きく、マイナス面を補って余りあるという話だ。いつも意見が一致しないと揶揄される経済学者でも、貿易自由化が結果としてメリットになる点では意見が一致している。 

大学レベルの話であるが、自由貿易のメリットは以下のように説明される。(ここの部分は2010年11月15日付け本コラム  と重複する)


まず、その農産品に対して関税等の貿易制限がかかっているため海外からの輸入がなく、国内供給だけになる単純なケースを想定する。その場合、価格は図のP1、取引数量はQ1となる。このとき、三角形A・P1・E1で表される部分を「消費者余剰」という。

一方、生産者にとって、三角形P1・B・E1で表される部分を「生産者余剰」という。消費者余剰と生産者余剰の合計は、この農産品取引のメリットであり、三角形A・B・E1で表される。

そこで、貿易制限を撤廃し貿易自由化を行うと、海外からの輸入が増えて、価格はP2まで下がり、取引数量はQ2まで増える。

こうなると、価格低下のメリットによって、消費者余剰は、三角形A・P2・E2へと増える。貿易自由化前との差は、台形P1・P2・E2・E1である。この消費者余剰の増加分は、消費者が価格低下のメリットで財布に余裕ができた部分と考えられる。その余裕分は他の財サービスに購入に回され、その財サービス部分の所得を増加させるので、GDPを押し上げる。

生産者余剰はやや複雑だ。国内生産者と海外生産者の合計では、三角形P2・C・E2となる。このうち国内生産者余剰は、三角形P2・B・Dになる。これは、貿易自由化前と比べて台形P1・P2・D・E1だけ海外製品の輸入に押されて縮小する。この国内生産者の生産余剰の縮小は、その生産者の所得減少になり、GDPを押し下げる。

なお、海外生産者の生産者余剰は、三角形P2・C・E2から三角形P2・B・Dを除いた、四角形D・B・C・E2となる。

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